CNET Japan Live 2013

ソーシャルメディア時代における企業のあるべき姿--今後生き残るための条件

 朝日インタラクティブは12月10日、「CNET Japan Live 2013 〜全社員マーケター時代のビジネス戦略〜」を開催した。スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスの普及が進むとともに、FacebookやTwitter、LINEといったソーシャルメディアの急拡大による影響を受け、大きく変貌してきたマーケティングに焦点を当て、さまざまな角度から、考察、論議した。

 企業のソーシャルメディア活用を支援するループス・コミュニケーションズの代表取締役で、『ソーシャルシフト』などの著書がある斉藤徹氏は、CNET Japan Live 2013でソーシャルメディア時代における企業のあるべき姿について講演した。

ユーザー体験が拡散されるソーシャルメディア

ループス・コミュニケーションズ代表取締役の斉藤徹氏
ループス・コミュニケーションズ代表取締役の斉藤徹氏

 顧客が企業と接したときどのような体験を得たかは、今やソーシャルメディア上で瞬く間に拡散するようになっている。期待以上の体験を得られた顧客の喜びはソーシャルメディアでつながる人々の間で共有され、企業が仕掛けたプロモーション以上に効果的な広告となる一方、失望・苦情の声や、従業員の悪ふざけが拡散されたことで、事業の存続すら危ぶまれる事態に発展することもある。

 斉藤氏は、企業が今後生き残るためには、売り手と買い手が共に満足し、社会からも愛される「三方よし」の経営を体現することが求められると指摘した。

 講演の冒頭で斉藤氏は、1981年、当時経営危機に陥っていたスカンジナビア航空のCEOに就任し、わずか1年で業績をV字回復させたヤン・カールソン氏の経営手法を紹介。同氏は、飛行機を利用するとき旅客が従業員に接する機会は平均5回で、接触1回あたりの時間は15秒程度だが、そのわずかな時間の間に顧客の脳裏には会社のブランドイメージが刻みつけられることを重視。顧客本位の経営方針を社内で徹底共有するとともに、顧客に接する最前線の従業員が管理職の判断を仰がずとも15秒の間に最善のサービスを提供できるよう、現場への大幅な権限委譲を行った。

値上げを伴うサービス変更を発表したNetflixにユーザーが猛反発したばかりか、株価も大幅に下落。業界大手企業の横暴さが生んだ失策として受け止められた
値上げを伴うサービス変更を発表したNetflixにユーザーが猛反発したばかりか、株価も大幅に下落。業界大手企業の横暴さが生んだ失策として受け止められた

 航空券をホテルに忘れたまま空港に着いてしまった旅客に対し、従業員は現場判断で代わりの仮航空券を発行して、ホテルに忘れ物を照会し航空券を回収。予定便の出発前に旅客の手元に航空券を無事届けたエピソードなどが伝えられている。このような、現場による顧客本位のサービスの積み重ねで、第2次石油危機に苦しむ他の航空会社とは異なり高いブランド価値を築くことに成功した。

 この例とは逆に、拙速な行動で市場の評価や信頼を失墜させてしまう企業も現れている。斉藤氏が第1の例として挙げたのが、郵送DVDレンタルと動画ストリーミングサービスの大手、米Netflixだ。それまで、DVDレンタルとストリーミングの両方を月額9.99ドルで利用し放題という料金制度を売り物にしていたが、2011年9月、レンタルとストリーミングとを事業分割するため、それぞれを月額7.99ドルの別サービスとして提供する計画を発表。

 計画が実行されれば、既存客にとっては月5.99ドルの値上げとなり、アカウントも別となって使い勝手も低下するため、ユーザーは猛反発。同社のソーシャルメディアに寄せられた大量の否定的なコメントに対してCEOが謝罪するもユーザーの理解は得られず、結局翌10月に分割計画を撤回するが、直前に行っていた値上げの影響などもあり、3カ月間で同社の株式時価総額は約160億ドルから約60億ドルまで減少、失策によって会社の価値が6割以上失われてしまった。

米Domino's Pizza--信頼回復もソーシャルメディアや動画コンテンツ

 第2の例として挙げられた米Domino's Pizzaは、今年日本でも複数のケースで問題となった、従業員による悪ふざけの投稿である。2009年4月、従業員が宅配ピザの材料となる食材を故意に不衛生に扱い、その様子を撮影した動画をYouTubeにアップロードしたところ、ソーシャルメディアで急速に広がり、社名で検索すると上位に動画が表示されるといった事態にまで発展。事件後の調査では、過去に同チェーンを利用していた顧客の約3分の2が利用をためらうと答えるなど、ブランド崩壊の危機となった(なお、この後信頼回復のため同社が駆使したのもソーシャルメディアや動画コンテンツだった)。

 企業側の問題行動が業績に悪影響を与えること自体は昔から変わらないが、影響の範囲や事態悪化のスピードは、ソーシャルメディアの普及によって以前とは比較にならないほど拡大した。「人々がソーシャルメディアでつながることは企業にとって望ましくない」と考える経営者も少なくないと想像される。しかし、現実には既に企業と消費者の力関係は逆転している。また、悪ふざけの投稿が止まらないことからもわかるように、今や企業は従業員をも力をもってコントロールすることはできなくなりつつある。

 ここで斉藤氏は、IBMが世界の主要企業のトップを対象に行った調査「IBM Global CEO Study 2012」の中からいくつかのデータを紹介した。調査によれば、業界平均よりも高い業績を挙げている企業のCEOほど、従業員への権限委譲、顧客接点としてのソーシャルメディアの重視、他社とのパートナーシップの強化に努めている傾向が見られた。

 2012年時点では、ソーシャルメディアを重要な顧客接点であると考えている経営者は少ないが、3〜5年後にはコールセンターよりもソーシャルメディアのほうが重要になる一方、伝統的なメディアの重要性は低下すると考えられている。古いタイプの経営者が、ソーシャルメディアをクレームや告発につながるものとして疎んずる中、斉藤氏は「好業績なCEOほど、人々のつながりから価値を生もうとしている。“絆”から価値を創造する、という姿を求めている」と説明する。

業績が好調な企業のCEOは、今後数年のうちにソーシャルメディアが対面の次に重要な顧客接点になると考えている
業績が好調な企業のCEOは、今後数年のうちにソーシャルメディアが対面の次に重要な顧客接点になると考えている

 昨今、従業員に過酷な労働条件を強いる“ブラック企業”が批判されているが、斉藤氏は、ソーシャル時代においては「たとえ業界では平均的な労働条件であっても、一度『ブラック』というレッテルを貼られると、消費者からも受け入れられなくなる」と話し、株主や経営者だけの利益を優先した利己的な経営を行うことは、その方針そのものが今後の事業運営にとってリスクであると指摘する。

 この正反対の考え方が、かつて近江商人がモットーとした「売り手よし、買い手よし、世間よし」、すなわち「三方よし」の思想だ。売り手の都合だけでなく買い手にも心から喜ばれ、商いを通じて社会にも貢献することを目指す考え方だが、斉藤氏はこれを現代的に再解釈し、社員・顧客・パートナーを大切にし、愛される企業経営を目指すべきと主張する。

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