著作権保護は「死後70年」にするべきか--JASRAC都倉会長に聞く - (page 2)

 私自身には子供がおりませんので「クリエイターの総意」と言われると肯定はできません(笑)。ただそれ以前に、発言そのものをもう少し深く捉える必要があると思います。つまり死後50年から70年に伸びたとしても、自身の生みだした作品やキャラクターが「孫やひ孫の利益になる」というクリエイターとしての矜持です。果たして何人のクリエイターが、死後70年経過しても「自分の著作物は経済的価値を失っていない」と言い切ることができるでしょうか。この意見自体をクリエイターの総意と捉えることには無理がありますが、そこまでの自信と確信をもって創作活動にあたること自体は、すばらしいモチベーションになり得ると考えます。

――逆に「保護期間は現行の死後50年を継続すべき」とする側のメリット論について。まず、ビジネス的観点からのメリットが挙げられることが多いようですが。

 一時期、日本では著作権保護期間の過ぎた古い海外映画作品が安価で販売されていましたが、正直、パッケージの出来を見ただけでも恥ずかしく思いました。中身をみても、音量調整や映像の乱れなど、劣悪コピーそのものでした。やはり、しかるべき業者がしかるべき手続きを踏まずにビジネスをすることで、作品そのものの価値をおとしめてしまう。それでも安く作品が見られればいいと考えるか、作品に対する敬意を損なうべきではないと考えるか。これも国民性や民度が問われるテーマでしょう。個人的には、日本国民の多くは後者を選択してほしいと思いますし、事実そうであると確信しています。

――「二次創作を阻害し、クリエイターの育成を阻む」という意見については。

 自分の専門である音楽の分野でいえば、そもそも「似せて作った」という判断自体が難しい。似ているといえば似ている、と言えるケースはあるでしょうが、その判断基準は主観に委ねられる。ただ厳しいことを言わせてもらえば、独創的なメロディを生みだし、後世に影響を与えることができるのは一部の人間であり、著作権フリーになった楽曲を真似ることで創作活動に励んでいる人材を育成したところでクリエイターの底上げにはつながらない、ということ。少なくとも、保護期間延長の是非に関わるような話ではないでしょう。

――保護期間中の作品について現権利所有者を探し出すのが難しく(※)、映像化や再販、ネット流通などを阻害するという声もあります。

 これは現在進行形のまっとうな商売における課題なのでよく理解できます。放送局などから「本当に大変だ」という声も聞きました。私の立場として何か申し上げるのは難しく、現時点では「がんばって権利所有者を探して交渉してください」としか言えません。一方、現権利所有者が創作者自身であるかのごときふるまいで交渉をこじらせるようなケースが生まれていることについては違和感を覚えます。先ほどの「孫・ひ孫のために」という意見で問題があるとすればその点でしょう。権利の継承者はあくまで継承者であり、創作者本人ではない。創作者の意図を捻じ曲げてまで権利を保護・行使しようとするのは、個人的にいい状況とは思いません。権利の継承者もまた「文化の保護」であることを十分に理解した上で継承すべきでしょう。

――最後に改めて、保護期間延長の意義について教えて下さい。

 創作者の立場からするとおこがましい意見になりますが、文化というのは「感謝」されるべきもの。「感謝」の精神があってはじめて成熟していくものです。保護期間が終了した作品を劣悪コピー販売したり、キャラクターを自由に蹂躙したりすることは「感謝」の足りない行為であり、それらを望んで歓迎するというのは極めて民度の低い行為であると自覚していただきたい。一方、日本人はそうした「感謝」の精神を十分に理解できている国民性であるとも考えています。ただ理解できている分、成文法として押しつけられると反発したくなる。これはよくわかります。JASRACを含め、認識を深めていただけるよう努力していく必要があるでしょう。現時点で正しくその意義が伝わっていない状況は我々としても望むべきことではなく、今後も一層の啓蒙に努めるべきと考えます。

※編集部注:いわゆる「孤児著作物」の問題については、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会における裁定制度の在り方についての議論の中で検討されることになっている。

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