著作権保護期間を著作者の死後50年経過とする現行法から、諸外国並みの70年へと延長することを求める動きについて、日本音楽著作権協会(JASRAC)はかねてから積極的な姿勢を貫いてきた。一方、音楽のネット配信や動画投稿サイトなどの隆盛にともなう国民の「著作権」に対する意識の高まりを背景に、こうした著作権管理団体の動きは「歓迎すべきではないもの」と捉えられ、いつしか対立の構図が生まれてきた。
果たして、著作権保護期間延長は善悪の二元論的に語られるべきものなのか。そして、著作物を享受する立場のユーザーにとってマイナスの側面しか生まないものなのか。改めて理解を深めるべく、JASRAC会長で日本を代表する作曲家として知られる都倉俊一氏に話しを聞いた。
ひとつは「統一する」ことに意義がある、ということ。OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国のうち、30カ国が保護期間を「著作者の死後70年まで」としています。死後50年までとしているのは日本、カナダ、ニュージーランドの3カ国だけ(メキシコは死後100年)であり、このままでは国際的な調和を乱す恐れがあります。
著作物がネットワークを通じて国際的に流通する現代において、海外著作物の保護期間が日本では20年早く失われることになる。つまり、海外では保護されている著作物が、日本ではフリーの状態になるということです。逆もまた然りで、日本の著作物が海外では保護されているにも関わらず、日本国内では保護が終了してしまう。とてもアンバランスな状態が生まれるとともに、海外の権利者からは厳しい目を向けられる恐れがあります。
どこの国とはあえて名指ししませんが、著作物を軽々しく扱い、その権利を侵害する行為に対しては国民性が問われます。事実、そうした行動をとる国々に対し日本国民も厳しい視線を送っているはずです。それらと同様の目が日本にも向けられる可能性がある、ということを改めて認識してほしいと考えます。
「ミッキーマウス法」、つまりウォルト・ディズニー社の意向が強く反映しているのではないか、という指摘については、大きく2点について考えなければなりません。ひとつは、ディズニー社にとって著作物の権利を守ることは企業としての最重要項目であり、それはビジネスそのものの根幹を揺るがしかねない事実であるということ。著作権はあくまで個人に帰属するものですが、ディズニー社にとっては企業の財産そのもの。何がなんでも守ろうとする意図は理解できますが、これを法律によって国際的に守っていくべきかどうかについては個人的にも難しい面があると思います。
単に一米企業の利益を守るため、という面においては議論すべきということです。一方、いわば米国の国民的キャラクターであるミッキーマウスやドナルドダックが保護期間終了とともに蹂躙されていいものなのかどうか、という文化保護的側面からいえば、断固として守られるべきと考えます。他国の象徴的キャラクターを軽々しく扱うこと、これは先ほども申し上げましたが国民性、民度が問われる。米国側からすれば、そうした状況が生まれないよう働きかけてくるのは当然のことであり、保護期間延長を日本に対して強く働きかけてくる動機のひとつに挙げられたとしてもおかしいこととは思いません。
海外で人気を博している日本発のキャラクターが、数10年後に著作権フリーとして自由に扱われるようになれば、国民として愉快な事態ではないはずです。もちろん、保護によって利する日本企業があること自体も有益でしょうが、それ以上に「文化を守る」ことに意義がある。将来的に多くの「日本文化」が守られることを考えれば、現在、保護期間を延長して諸外国との調和を図ることにも理解が得られるのではないかと思います。
著作権者の死後にも著作物を保護するようになった背景として、かつて、夭逝した天才芸術家の多くが存命中に十分な評価を得ることがなく、さらにその子孫についてもなんら恩恵を受けることがなかったという状況があります。世界的に影響を与える芸術作品を生みだしておきながら、本人やその子孫が成果を享受できないのはおかしいのではないか、という考え方が元になっているわけです。
加えて、私は発言者ご本人を個人的にもよく存じ上げていますが、ご本人のおいたちやそれまでの苦労を考慮すると、そうした意見が生まれてくるのも理解できます。戦後の貧しい時代を過ごし、創作活動に全勢力を注いで多くの作品を生みだしたことで、多くの名声と一定の財をなした。ご自身の努力によってつかんだ創作活動の成果である作品を、財産ということではなく後世に残したいという意味で「誰かのためではなく、自分の子孫のため」と言いたくなる心情は、同じクリエイターとして納得のいくところです。
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