マイクロソフトのノキア買収が業界に及ぼす影響--山根康宏の見方 - (page 2)

今後、Windows Phoneは伸びるのか

 では今回の動きの後、果たしてWindows Phoneの販売数は伸びるのだろうか?スマートフォン劣勢の印象が強いNokiaだが、現状を見るとWindows PhoneスマートフォンLumiaシリーズの販売台数は2012年から順調に伸びている。Nokiaのスマートフォンの総販売台数は2013年第1四半期までは前期比マイナスが続いてたが、これはSymbian OS製品の急減による影響が大きい。

 そのSymbian OSスマートフォンは2013年第2四半期には出荷数は実質ゼロとなった。一方Windows Phoneは2012年第3四半期に使いやすさを向上させたWindows Phone 8製品を投入した結果、それ以降は前期比約3割の伸びを連続して記録している。ちなみに2013年第2四半期のLumiaの販売台数は過去最大の740万台。この数値はもちろんSamsungやAppleには遠く及ばない。だがスマートフォンシェア3位グループのLG ElectronicsやLenovoなどの出荷台数が1000万台強であることと比較すると、それほど大きく離されている台数ではない。

 Lumiaシリーズの中でもコストパフォーマンスに優れたLumia 520は各国で売り上げを大きく伸ばしているという。しかも新興国だけではなく先進国でのプリペイド需要も高い。またポップな色合いが特徴のLumia各モデルに対し、金属筐体を採用しビジネス向けとも言えるLumia 928や、価格を抑えながらディスプレイサイズを大型化したLumia 625、そしてPureView技術による4100万画素搭載のLumia 1020など、この夏は久しぶりの新製品ラッシュで製品バリエーションも広げている。

 少ないプラットフォームから多品種展開を行うのは絶頂期時代のNokiaにとって十八番であり、Microsoftと開発が一体化したことにより製品種類はこれからさらに増えていくだろう。今月末にはフルHDディスプレイ搭載ファブレットの登場が噂されるなど、OSのアップデートに対応する新製品もより早く市場に登場するようになるはずだ。ラインアップの増加に比例してLumiaシリーズの販売数はこれから伸びていくことが期待できるだろう。

通信事業者との強いパイプも

 さらにMicrosoftはNokiaの端末部門を手に入れたことにより、各国の通信事業者との強いパイプも得ることになる。NokiaのブランドはMicrosoftにライセンスされることから、スマートフォンや携帯電話も今まで通りにNokiaブランドで販売が継続される予定だという。各国の消費者はこれまで通りに慣れ親しんだNokiaのスマートフォンや携帯電話をこれからも店舗で見つけることができるわけだ。MicrosoftはそのNokia端末だけではなく、Surfaceなど携帯電話以外の製品の売り込みや端末とサービスを組み合わせたソリューションなども通信事業者を通じて販売することが可能になるのである。

 そしてNokiaを通じてNokiaソリューションズ&ネットワークスとの関係が強化できるメリットも見逃せない。通信速度の高速化は端末とネットワークの接続を複雑化し、たとえば電波出力の最適化や電力消費コントロールなどがよりシビアに求められるようになる。LTEからLTE Advanced、そして5Gといった今後の最新の通信技術に最適化した製品を開発するためには、ハードウェア開発部門だけではなくOSレベルでも高度なネットワーク知識が求められるようになるだろう。

 一方、懸念されるのはWindows Phoneを開発・販売している他メーカーへの影響だ。OS企業がメーカーを買収したGoogleとMotorolaのケースでは、Motorolaがすでにシェアを大きく落としておりAndroid OS端末を開発する他社の脅威になることはなかった。しかし今回のNokiaの買収ではMicrosoft自らがWindows Phone製品を一気に10機種前後扱う、Windows Phoneの最大シェアメーカーとなる。1~2機種程度しか揃えていない他社にとっては、OS供給メーカーそのものが大きなライバルになるという状況を招いてしまうわけだ。

 その結果、今回の買収後にWindows Phone端末の開発を中止するメーカーが出てくるかもしれない。だがメーカー各社が多数の製品を出しPCのOSシェアを寡占しているWindows OSに対し、スマートフォンOSに占めるWindows Phone OSの割合は前述したようにまだわずかである。

 そのためNokia以外のWindows Phoneメーカーの動向に配慮するよりも、Microsoftが自社製品だけを販売しスマートフォンのシェアを急速に高める必要があるかもしれない。仮に数年後、Windows Phone OSのシェアが一定数以上になればそのときに改めて参入するメーカーも現れるだろう。すなわち今回の買収は短期的には他メーカーにとってマイナスとなるかもしれないが、長期的に見れば多くのメーカーに市場参入の機会を与えるプラスの作用を生み出す可能性を秘めているかもしれない。

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