テクノロジのモバイル化やアプリ化が進むにつれて、サンフランシスコ市内にオフィスを構える企業が増えている。シリコンバレーの牧歌的な雰囲気もよいが、モバイルが消費される街のなかでモバイルに関する製品を作るというのは非常に利にかなっているからだ。Jawboneもサンフランシスコ市内、SOMAエリアにオフィスを構える企業の1つだ。
Jawboneは、もともと、スマートフォン向けのヘッドセットのシリーズや、小型で高音質のワイヤレススピーカ「JAMBOX」など、非常にデザイン性に優れたBluetooth製品を作ってきたメーカーだ。モバイル時代のライフスタイルを彩る製品を作っていくという同社のコンセプトは、優れたデザインとモバイルを前提とした便利さと変わり、独特な魅力を発揮している。
そんなJawboneが2011年末から取り組んでいるのが、ライフログを記録するリストバンド型デバイス「UP by Jawbone(UP)」だ。日本でも2013年4月に発売し人気を博している。JawboneでUPのプロダクトマネージメント・ディレクターを務めるBrad Kittredge氏に話を聞いた。
UPは米国をはじめとした各国で人気を博しており、生産が追いつかないほどだ。なぜこのように人気を得ることができたのか。
「UPが受け入れられている大きな理由は、とても簡単なデバイスで、24時間、365日の生活のサポートを受けられるようになる点でしょう。これまで無意識だった生活の中で歩数や睡眠を取得し、これを簡単にビジュアライズできるようにする、身につけるセンサ、スマートフォン向けアプリ、そしてデータのシステムです。このシステムを生活に取り入れてもらうとき、まず身につけるセンサはファッショナブルでなければなりません」(Kittredge氏)
Kitteredge氏が指摘するように、UPはデザインを優先して開発された製品だ。案内されたサンフランシスコのオフィスは、白を基調としてハッキリとした色使いが施されたオシャレな空間。テクノロジ企業というよりはファッションブランドのオフィスのようだった。このオフィスを見れば、どんなフィロソフィーで製品が作られていくか、一目瞭然と言ってもよいだろう。
また、Bluetooth製品を作り続けてきた企業ながら、UPはスマートフォンとの同期にBluetoothやWi-Fiといったワイヤレスではなく、イヤホンジャックを利用してデータを同期する。この点についても、Kittredge氏はテクノロジよりも優先すべきことがあると言う。
「デザインの良さと同時に、シンプルさを重視した結果でした。例えば、私たちの祖母でも利用できるか?という視点で考えていたのです。Bluetoothを採用した製品は、接続や設定にストレスを与えてしまいます。また、重量や形、バッテリライフなどのウェアラブルデバイスで最も重要な要素を犠牲にします。特にバッテリは、10日間持たせるにはどうしたらよいかを考えました」
既存の自社製品の特色ですらいったん棚上げし、製品作りに取り組む。その結果、UPの人気につながったというわけだ。
UPには加速度センサが内蔵されており、通常のモードと睡眠モードの2つのアルゴリズムを切り替えて、行動を計測しているそうだ。このデータをスマートフォンのアプリと同期することで、歩数や睡眠の深さをグラフで表示できる仕組みだ。
自分の行動から出来上がったデータを可視化するだけでも価値は体験できる。「今日はよく歩いた」「今日はよく眠れた」という感覚的なことを、具体的な歩数や時間で見ることができるようになるからだ。Kittredge氏は、素早く自分の行動にフィードバックを与えることができるようになり、結果として長期的に、自分の体と向き合う選択ができるようになると語る。
そのサポートとして、自分のデータからアドバイスを行う「Insight」機能がある。例えば今週は平均何歩歩いている、水曜日はよく歩く、といったデータをまとめて示したり、朝15分歩くと1日の代謝が上がる、といった情報提供をしてくれる。しかし、こうしたアドバイスは非常に注意深くしているという。
「健康に対する価値観は人それぞれです。また食については、それぞれの地域に備わる習慣や、家庭の流儀があります。あまりアプリからこうすべきだ、これは良くない、といったアドバイスを与えてしまうと、それは押しつけになってしまうでしょう。Insight機能はあくまで、ユーザーが自分の生活をデータで知るための手段として、人それぞれの体験、コンテクスト、パーソナリティに注力していこうと考えています」(Kittredge氏)
自分のデータを活用する方法にも着手しはじめている。UPをプラットホーム化し、健康関連のテクノロジ企業、機器メーカーなど100のパートナーシップを結んだ。その中でもユニークなのが、さまざまなウェブサービスを連携できるサービスIFTTT(イフト)だ。
「UPで集めているデータを、ユーザーが他のアプリに使えるか、という取り組みです。データを活用して新しい価値を付けられるかどうか。パートナーの多くはフィットネスアプリですが、IFTTTは、幅広いウェブAPIとUPを連携させることができます。例えばゲームやライフスタイルのアプリと組み合わせられるのではないでしょうか」(Kittredge氏)
UPのプラットホーム化は、外部のアプリケーションからUPのデータを使うだけでなく、外部で取得したデータをUPに持ち込むことも可能になる。Kittredge氏は「現在は動作のデータしか取得していないが、将来はもっとさまざまな活動を記録できるのではないか」と語る。
フィットネスに関連するウェアラブルデバイスは、FitbitやNike、LARKなどの強豪がひしめく。先頃米国では、Apple Store限定で、クールなデザインのSHINE(MISFIT WEARABLE)も発売された。また、iPhoneアプリ「Moves」はポケットにiPhoneを入れておくだけで歩数やGPSでのルートマップを取得できるほか、GoogleもAndroid 4.3に低消費電力で活動状況を取得・認識するAPIを載せた。
UPも含めてこれらのデバイスやアプリがキチンと記録しきれていないのは食事だ。UPのアプリでは、食品のバーコードを読み取ってカロリーなどを自動入力する機能や、写真で記録する機能が備わっているが、例えばInstagramに投稿する「#food」タグ付きの投稿をIFTTTを介してUPに読み込むなどできるだけ「わざわざ」という行動を強いずに記録できる方法を探しているという。
UPを含めて、次の製品に関する明言は避けたが、これまでのJawboneのプロダクトに流れる「テクノロジを身につけること、人々とテクノロジの間にあること」を追究していくという。テクノロジをファッショナブルにまとう、ユニークなプロダクトに今後も期待だ。
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