美少女ゲーム業界が生んだクラウドファンディングの価値--「CAMPFIRE」で過去最高の調達 - (page 2)

 2年くらい前に米国のKickstarterを知って、クラウドファンディングに注目をしていたんです。それで自らパトロンになって商品を買ったりして仕組みを勉強しました。私は美少女ゲーム業界に属するものですけど、さまざまな理由でソフトの売り上げが年々落ちていっている状態が続いていて、開発資金回収のスキームを作るのがすごく難しくなってきているんです。一般的に資金調達となると銀行か流通から借り入れるのがメインになると思うんですけど、結局売れないとそのまま借金になります。それで過去に痛い目を見た経験もあります。

 クラウドファンディングの第一印象として、商品化リクエストサイト「たのみこむ」とプレオーダーを混ぜたような感じがしたんです。それと、俗にオタク業界と呼ばれる、サブカルチャーやポップカルチャーに相性がいいとも感じていました。ひとつのコンテンツにほれ込んだら同じ商品を複数買うくらいのユーザーさんもいる世界ですので。

 Kickstarterのプロジェクトをいろいろ調べて、成功しているプロジェクトと不成立のプロジェクトで差が見えてきて。ただ、やってみようとして2年前にこの話を持ち出しても、誰も目を向けてくれなかったと思うんです。当時は国内にクラウドファンディングのサイトができたかできないかくらい、認知度が低かったですし。

--その後、国内でもクラウドファンディングが知られるようになって実行したというところでしょうか。

 しばらくして、新宿歌舞伎町や中野駅前で開催されたアニメソングやダンスミュージックの屋外型DJイベント「リアニメーション」のことを知ったんです。日本にもこういう屋外型のレイブイベントがあるのかと思いましたし、楽しさの共有の場を作ろうとしているのが、すごく魅力的に見えたんです。さらに「リアニメーション5」のときにも、CAMPFIREさんを使ってクラウドファンディングによる支援を集っていましたけども、自分もパトロンになって支援しましたし、実際にサクセスしたのをみて、こういうエンタメでもいけるのかなと。

 たまたまなんですけど、まずCAMPFIREさんに問い合わせをしたら、対応していただいたキュレーターの方が「グリーングリーン」などの作品を遊んでいて、話が早かったことがCAMPFIREさんで提案した大きな理由になります。それからいろいろ説明を受けたりお話ししていく中で、こういったエンタメ系の案件も増えている状態にあると。なので、まずは小さい案件から提案してデータを取っていこうと思っていました。

--プロジェクトを出す前に、なにか取り組んでいたことや調べていたことはありますか。

 もともとニコニコ生放送にコミュニティを持っていたことから、そのメンバー(ファン)向けにファンミーティングの生放送を毎晩のようにやっていました。こちら側の意見を提示したり、ファンからの意見を吸い上げて、リターンとなる商品や金額などのメニューを詰めていきました。

 メニュー作りも200くらいのプロジェクトを調べて参考にしました。ただ、プロジェクトによっても求められているものが違いますし、私たちにはすでにファンの方がいらっしゃるので、ほかのものはあくまで参考程度ですね。

--いざプロジェクトを開始したら、目標金額が360万円という高額にもかかわらず、異例の早さでサクセスしました。

 だいたい提案から1カ月くらい経った5月末あたりに8割くらいが集まればいいかなと思っていたのですが、ふたを開けてみたら約5時間半で到達してしまいました。CAMPFIREさんでもアクセスの集中でサーバが落ちたり決済ミスが発生したりと、今までに無かったことが起きたと聞いています。

 その後も金額が増えていったのですが、さすがにそこまでの金額になるとみなさんに申し訳ないので、一定の金額を超えたらリターンとなる映像化のメディアをDVDからBlu-rayにしたり、オーディオコメンタリーの実装、装丁も変更するような対応もすると告知したらそれも超えてしまって。最終的に986万円集まりました。大変さが増してしまって自ら首を絞める形になりましたけど、おかげさまで発売前に若干ではありますけど黒字の状態であるのは、精神的に落ち着けます。そして、クラウドファンディングをやってみて得たものというのはとても大きかったですね。

--ここまでの金額になった要因はどこにあると思いますか。

 いろいろあるとは思いますけど、きちんとコミュニティを形成したことと、パトロンになってもらえそうな層の方に、双方向での説明とやりとりを毎晩のように繰り返していたからだと思います。ありがたいことにOVERDRIVEとmilktubのファンの方がすでにいらっしゃいますけど、みなさんに対してどのようにアプローチをしたら賛同してくれるかを考えて実践し、プロジェクトにのってくれる空気を作ることがうまくいったからだと思います。

 あとクラウドファンディングサイトはあくまでツールという認識ではありますけど、CAMPFIREさんはキュレーターの方が熱意を持って対応をしてくださったので、その点はとても感謝しています。

 予想外だったのは、3万円を最高額のメニューにしていたのですが、高い方から埋まっていったんです。「3万円払わせろ!」という、見たことがないようなクレームもいただきました。他のプロジェクトを見ても、高額のメニューを購入する人が少ないと思っていたので。

--高額のメニューが埋まるというのは、熱心なファンをきちんと巻き込むことができた結果だと思います。

 そうですね。それでこの経験からいろんなデータを得られたので、僕としてはメインだと思っていたゲーム開発の資金調達に乗り出したというとことですね。

--そのあとに行われた「グリーングリーン」リメイクのプレオーダーについて伺います。このときはクラウドファンディングサイトではなく、自社ECサイトで運用を行いました。

 自社ECサイトを使った一番の理由は、手数料の問題です。ゲーム開発となると数千万単位になりますけど、多くのクラウドファンディングサイトは20%程度の手数料がかかりますから、仮に1000万を目標金額とすると200万を払わなくてはいけない。かといって、あくまでツールであるサイトが、プロモーションなどの協力をしてくれるかというとそうでもない。そこに貴重な開発費を取られてしまうのはどうかなと思うんです。

 あとは業界のフラグシップといいますか、もともと自社の通販システムがあったので、プレオーダーとクラウドファンディング的な購入型リターンのメニューなど、双方のいいところを組み合わせたやり方で資金調達ができるという、ひとつの可能性を提示できればいいかなというつもりでやりました。

--メニューも、20万円や6万9600円といった高額のものも用意されましたが、あっという間に埋まりました。

 社内でも検討を重ねてさんざんもめたりもしたのですが、正直20万円はギャグというと失礼かもしれないけれど、「面白いことやってんなー」くらいにネタにしてもらって、購入者がいなくてもいいと思っていたのです。でも限定5つだったのが15分で埋まってしまって。浅草案内して食事も自腹ですから、本当に何をしようかなと考えているところです(※20万円コースには、ゲームソフトやオリジナルCD、イラスト色紙などといった他のコースにもあるアイテムのほか、bamboo氏によるマンツーマンの浅草観光案内やSTUDIO696のスタジオ施設見学といったものが用意された)。

 ただ、これがここまで高額になったのは、「グリーングリーン」だからこそ集まったことだと認識しています。12年前のタイトルですけど、当時はシリーズ累計で8万本くらい売れたんです。リメイクに対して思い入れを持ってくれているお客さんがいたからというのが大きくあります。あともうひとつ、リメイクということで、商品の全体像がお客さんにイメージしやすいというものあったかと。全くの新作でこれだけの金額になったら本当にすごいことですけど、きっとここまでにはならなかったでしょう。

--この2案件がどちらもかなり高額の調達金額になったと思いますが、実際にやってみてクラウドファンディングについての印象や感じたことはありますか。

 CAMPFIREさんから教えていただいたところだと、映像化計画の986万円は、国内(のクラウドファンディングサービスの中で)3番目の調達額と聞いていますし、「グリーングリーン」もプレオーダーの形にはなりますけど、業界的には異例の額だとは思っています。ただ弊社くらいの規模でこれだけいくんだったら、もっとファンのあるメーカーやブランドが取り組めば、いい数字は出ると思うんですよね。たまたま今回は、弊社が最初に取り組んだからというだけの話だと思います。

 その一方で、本当にお金のあるところはこういうことはしなくていいと思います。あくまでクラウドファンディングは、一般流通にのせて発売するのが難しいようなニッチなアイテム、資金が無いクリエイターが使う仕組みだと思っています。もちろん我々にとってはすごく助かる仕組みですが、それがすべてではないです。資金調達の手段のひとつなだけで、「クラウドファンディング」という言葉のイメージだけがひとり歩きをしているのは、なんだか底の浅さを感じます。

 大事なのは、僕らが作りたい、あるいはお届けしたい商品に対して、お客さんがロマンを感じてくれるか否かということであって、その間に邪魔なものをなにも挟まずに、お客さんと直接勝負できるところがクラウドファンディングのいいところであるし、そこを忘れてはいけないと思います。

 メーカーやブランドさんによってスタンスが違うと思うんですけど、僕らはたとえばコンシューマゲームメーカーさんがやってこなかったようなインディーズ的な立ち位置と攻め方で、さまざまな取り組みやいろんなことを十数年間かけて美少女ゲーム業界でやってきて、その積み重ねがあるから今があると思っています。少なくともお客さんの声を聞かないとやっていけないことだと思うので。

--この2案件の取り組みに対して、周囲の方や企業からの反応はありましたか。

 同業他社からは10件くらい問い合わせがきました。他社さんも同じようなことを考えていたと思うんですけど、決め手や一歩が踏み出せないところが多いようですね。言える範囲で言うのなら、いきなりゲーム開発のような大型のものではなく、少額のグッズから始めて、お客さんとの信用を築いていけばいいんじゃないかと思います。

--最近ではクラウドファンディングが少しずつ認知されて、サービスサイトが次々に立ち上がっている状態です。自身でいろいろと調べられて、なおかつプロジェクトを提案する側から見て、このような状況をどのように見ていますか。

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