もう一つ例に挙げたいのが「あべぴょん」(iOS、Android)だ。安倍総理をモチーフにしたカジュアル・ゲームで自由民主党の公式アプリとなっている。インターネット選挙解禁の最初の選挙として注目が集まる中、ゆるくて、手作り感満載なアプリであるが、そのゆるさとは裏腹にマーケティングは最先端だ。あべぴょんを検証すると、PRやダウンロードへの誘因、固定客化の強化プロセスなどさまざまな施策が随所に施されたプロの策であることがわかる。
このアプリは5月中旬にリリースされジワジワと話題が形成された流れでダウンロードランキングが上昇し、ゆったりと総合無料ランキングで50位前後をキープしている。図はQuerySeeker Analyzeで取得したマーケティング指標データだ。1段目の赤いグラフがダウンロードランキング、2段目以下のグラフはメディア掲載数、Twitter数、ストアのレビュー数だ。
アプリをリリースして最初にすることは、アプリを知ってもらうことだ。これは全ての商材に共通することであり、予算があれば広告を大量に投入することで商材を知ってもらう。あべぴょんの場合は広告は全くしていないと推測できる。これはランキングの動きを見るとリリース後にランキング300位外の日が何日も続いているからだ。すぐにランキングに登場できるようにする広告は「リワード広告」「ブースト広告」と呼ばれるもので、広告露出期間と予算から何時間で何位前後など、相応の実績を導き出せることは既に業界の常識だ。あえて広告しない道を選んだのだろう。
広告を使わずに、商材を知ってもらいダウンロードしてもらうには、知ってもらう手段を用意しなければならない。これがウェブプロモーションの神髄だ。一言で言えば話題を提供することだ。あべぴょん──それ自体が話題の提供元だ。総理をちゃかした政党公式アプリはメディアで取り上げられる可能性が高く自然に話題を広げやすくする。
QuerySeeker AnalyzeのMedia&Blog、Twitterの動きを見るとメディア掲載が先行し、Twitterが日増しに上昇、その流れに乗った後、ダウンロードランキングが上昇していくという王道が展開されている。これはメディアに掲載された情報がTwitterを媒介して人々に情報認知が広がった先にダウンロードという行動が発生しているのだ。つまりソーシャルメディアによる自然認知と購買行動を組み合わせた方法論である。
更に話題はネット上だけに留まらずテレビでも放送される。ガラポンTVで単語「アプリ」を検索した際、6月30日に関西地域などで放送されるローカル番組の「たかじんのそこまで言って委員会」であべぴょんが話題にされていることが分かった。すると、この直後に、突然ランキングが10位以上上昇したのだ。マス化したスマホはテレビからの影響も確実に反映し、複合的にランディングページへの導線として結合されていく。
またTwitterでの情報流通として、アプリで遊んでいる人が、その内容をつぶやくような作り込みがされていることも見逃せない。点数やクリアした段階などをクチコミできるようになっているのだ。あべぴょんにもこれが実装され、知人が遊んでいるなら自分もやってみようという層を取り込む手法が導入されている。集客だけでなく、いつも遊んでもらうという固定客化プロセスとしても機能する。つまり集客と固定客化を同時に行なう実装がなされているのだ。これは以前紹介した「対戦☆ズーキーパー」などの手法と全く同じだ。
アプリストアはソーシャルメディア特性とマスプロダクションであることを念頭にさまざまな施策を打つことで攻略できる。マスになったが故にアプリストアの方法論は、インターネットで取り扱う商材全てに応用できる方法として取り扱えるのではないだろうか。ソーシャルメディアによる自然認知だけだなく、ブースト広告などによる購買促進も定番化されたものとなった。スマホとアプリストアはインターネットビジネスの先端市場であり、マーケティング手法のショウケースと言える。ただし、商材たるアプリは最高のものでなければならないのだ。
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