ドコモ・ドットコムでは、定期的にスマートフォンユーザーのコンテンツ利用動向調査を実施し、ウェブサイトとアプリそれぞれで各コンテンツジャンルの利用傾向を分析している。「天気」「ニュース」などの情報系ジャンルの利用が目立っているのだが、エンタメ系ジャンルにおいては、「ゲーム」「動画」「音楽」の3つが抜きん出る形となる。
この3ジャンルにおける利用傾向の違いとしては、「ゲーム」はアプリでの利用が高く、一方で「動画」はサイトでの利用が高いこと、また「音楽」は有料での利用が高く、一方で「動画」は有料での利用が低いことなどが挙げられる。
モバイル上での有料動画サービスとしては、「Hulu」やドコモの「dビデオ」、auの「ビデオパス」、ソフトバンクモバイルの「UULA」などといった、月額定額制でコンテンツ見放題といったサービスが多数存在し、さまざまな映画やドラマ、アニメなどのコンテンツ提供により利用者を増加させている模様である。また各テレビ局も、放送を見逃したユーザー向けに自社のアーカイブコンテンツを有料配信するなど、積極的に動画を配信している。ただし、前述の利用動向調査結果にもあるように、動画サービス利用においては、まだ無料動画サービス利用が主流といった状況が窺える。
無料で利用できる動画サービスといえば、真っ先に思い浮かぶのが「YouTube」であろう。ユーザーがさまざまな動画コンテンツを投稿し、他ユーザーと共有、閲覧して楽しむといったスタイルは、同様のサービスである「ニコニコ動画」(有料サービスも内包されているが)とともに非常に数多く利用されている模様である。
2013年2月にコムスコア・ジャパンが発表した動画ストリーミングサイト利用状況調査によると、「YouTube」は2位の「ニコニコ動画」に大きな差をつける形でユニーク視聴者総数トップとなっており、そのUGC(ユーザー生成コンテンツ)型無料動画サービスの浸透ぶりが窺える。
また「YouTube」には「ブランドチャンネル」と呼ばれる、いわゆる「公式チャンネル」も多数存在している。前述のコムスコア・ジャパン社の調査結果から見ると、ブランド力向上目的で自社が保有する音楽・映像コンテンツを提供する「VEVO」「フジテレビ」「Sony Music Entertainment Japan」などといった公式チャンネルが、数多くのユーザーに視聴されている。これらのことからも、「YouTube」は一般ユーザーから投稿されたコンテンツと企業が提供する公式コンテンツがうまく混在する形で構成され、その膨大な動画コンテンツが数多くのユーザーに利用されているということがよく分かる。
そのような中、「YouTube」は2013年5月より、一部コンテンツを月額約1ドルからという価格帯にて有料課金するサービスを試験的に開始した。2013年6月11日時点で55の海外向け有料チャンネルが提供されており、日本からもその内29チャンネルに登録が可能となっている。課金登録にはGoogle Walletによる決済を行う形となり、比較的簡単に手続きできる仕様になっているのは嬉しいところだ。
今後正式なサービス開始となれば、その膨大な利用ユーザー数に魅せられたコンテンツホルダーが、映画やドラマ、スポーツなどといったさまざまな映像コンテンツとともに多数参入してくることが予想される。そうなると、多くのタイトルを取り揃えた、巨大有料動画配信サービスとして開始当初から一気に浮上することも十分想定される。
しかしここで2つの点が気になる。1つが、冒頭でも述べたドコモ・ドットコムの調査結果からも分かるように、現状国内においては動画の有料コンテンツ利用者が限られている点である。無料であれば利用者は非常に多いのだが、有料となると激減するこの傾向がそのまま「YouTube」にもあてはまってしまうのではないだろうか。ユーザー視点からすると、無料で膨大な映像コンテンツをみられるという点が「YouTube」最大のメリットであるため、有料チャンネルを開設しても、結局従来通りの無料コンテンツ利用に偏ってしまうのではないか、と想像してしまう。
とはいえ、世界中で1カ月あたり10億人のユーザー数を持つといわれる「YouTube」なだけに、その数パーセントが利用するだけでも大きな売り上げを記録する。収益面を考えると見逃せない新プラットフォームであることは間違いない。
もう1つ気になるのは、他社が提供している既存の月額有料動画サービスとの差別化である。既存サービスと同じようなコンテンツラインアップになってしまっては、新鮮味に欠けてしまう。本格的なサービス開始時において、他のプラットフォームにはないコンテンツをどれだけ配信できるか、独自の機能や見せ方などといったオリジナリティをどこまで打ち出せるかが非常に注目される。無料動画配信という点で独自性を築いた「YouTube」だけに、有料課金サービスにおいても革命的な展開手法を期待するユーザーも多いことだろう。
動画のNo.1サービスとして広く認識・利用されている「YouTube」ではあるものの、有料課金モデルという点においては他サービスに比べて遅いスタートとなったわけだが、今後どのような誘導手法を「YouTube」側が設け、どの程度利用されるのか、また動画課金利用者数がまだそれ程多くないと想定される日本国内において、利用者増加への起爆剤となりえるのか、非常に気になるところである。
動画配信サービスに大きな変革を与えた「YouTube」だけに、他サービスとは違った、明確な特性を持った配信コンテンツ、サービス内容の登場を期待したい。
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