「人狼」、あるいは「汝は人狼なりや?」と呼ばれるゲームがある。多人数のプレイヤーが「市民」と「人狼(人間を装った狼)」に分かれ、プレイヤー同士の会話をヒントに集団に潜む人狼を探し出す、深い心理戦が展開されるコミュニケーションゲームだ。ヨーロッパをルーツに伝統的に遊ばれているもので、日本でもパーティーゲームとして普及し、ここ最近では進行をサポートするアプリの配信や、動画サイトでは実演プレイが多くアップされているなど、流行の兆しを見せている。
4月27日には、幕張メッセで行われるニコニコ超会議2内超ゲームエリアにおいて、イベント『超・嘘つき村の人狼』が実施される。これまでも2012年3月に『欧州伝承推理ゲーム 嘘つき村の人狼』というイベントが東京カルチャーカルチャーで開催。3人1組による家族(チーム)戦にアレンジした日本最大の人狼ゲームリアルイベントとして、チケットが数分で完売するなど盛況となっていた。今回開催される『超・嘘つき村の人狼』は、オリジナルシステムにより最大数百人が同時参加可能という、世界最大をうたう人狼ゲームリアルイベントとしている。参加費は無料(※会場の入場には、有料のニコニコ超会議入場券が必要)。
この人狼ゲームイベントの仕掛け人が、中野ブロードウェイにボードゲームショップ「ドロッセルマイヤーズ」を構える、ドロッセルマイヤー商會代表の渡辺範明氏。店舗経営のみならず、自らボードゲームのゲームデザインや、ゲーム作りのワークショップを開催するなど、幅広い“遊び”を提供するゲームデザイナーとして活動している。そんな渡辺氏は独立前、スクウェア・エニックスに在籍し主にオンラインゲームのプロデューサーを務めるなどデジタルゲームの作り手でもあった。
今回渡辺氏に、人狼ゲームの魅力やイベントについて、そして現在ゲームデザイナーとして参加しているオンラインデッキ構築カードゲーム『Pirates of Liberta』(パイレーツ・オブ・リベルタ)、さらに自身が考える“遊び”像について聞いた。
ドロッセルマイヤーズは便宜上ボードゲームショップとうたっていますが、本来目指したいものは“遊びのお店”なんです。ドロッセルマイヤー商會も、“遊びをプロデュースする会社”という姿勢で、世の中にある「遊び」を広く手掛けていきたいと思っています。
ただ、「遊び」という言葉は非常に定義が広く、最初から「遊びの店」と言われても抽象的でよくわからないですよね。ですので、僕らが理想とする「遊び」のひとつの象徴としてボードゲームが最適だと思い、まずは「ボードゲームショップ」を名乗りました。老若男女楽しめる懐の深さと普遍性がボードゲームのいいところです。が、ドロッセルマイヤーズの目指すところはボードゲームという枠にとどまりません。
私たちが以前から気になっていたことのひとつに、現在の日本における「遊び」の幅の狭さがありました。多くの人がうっすらと感じているところがあると思いますが、大人が普段する遊びといえば「買い物」「飲み」「カラオケ」「麻雀」「ダーツ」など、挙げられる選択肢が10種類もありません。では子供はどうかというと、20年前の子供は、自分たちで遊びを発明しながら遊んでいたので、無数の遊びが生まれては消えていったのですけど、現在は子供の遊びの世界もすっかりキャラクター玩具とテレビゲームによって商業化され大人とそう変わりません。しかしよく考えてみれば、人類は世界中であらゆる時代に「遊び」をおこなってきたわけで、世の中に遊びの選択肢はそれこそ無限にあるはずなんです。
せっかく大人になって自由に行動ができるようになったんだから、もっといろんな遊びをしたいはず。旅行やスポーツもすごく豊かな遊びだと思いますが、そういうはっきりしたジャンル化がされていない遊び、さらには「遊び」という形にすらならない「遊び心」みたいなものをみなさんに提示していくのがドロッセルマイヤーズの役割です。ボードゲームはそういった遊びのアーキタイプみたいなものが集まるメディアでもあるので、そこがとっても面白いところです。
「ボードゲームを扱う」なら「ボードゲーム屋さん」が一番わかりやすいポジションだろうということで「ドロッセルマイヤーズ ボードゲームマート」を開業しました。そしてこの2年間でオリジナルボードゲームの制作、イベント運営、ワークショップの主催、果てはオンラインゲームの制作にも携わるようになって、順調に枠からはみ出してきています。だんだんボードゲームショップと呼んでいいのかどうかよくわからなくなってきてますけど、創業時に思い描いていた状態に少しづつ近づいてきています。
直接的な理由としては、日本にボードゲームを作る人が増えればボードゲーム市場の底力が伸びる、と考えたのがひとつ。ただ、ボードゲーム市場という狭い範囲を取っ払って考えても、例えば日本のコンシューマーゲーム業界は規模は大きいですが、本当に「ゲームを作ったことがある」と言える開発者はものすごく少ないんです。
なぜかというと、コンシューマーゲームのほとんどは例えばRPG、レースゲーム、対戦格闘ゲームなど、ジャンルを決めてから作り始めます。でも「世界初のレースゲームを作る」という行為と「最新のレースゲームを作る」という行為は全く異なることだと思います。前者がいわば作品をゼロから1にするということで、後者はアレンジ、バリエーション、チューニングなんです。それももちろん重要なゲーム開発のノウハウではありますが、ゼロを1にすることでしか学べない考え方や、そこからしか起きないイノベーションもたくさんあるんです。
その「ゼロから1にする」行為が当たり前におこなわれているのがドイツ型ボードゲームの制作現場です。このジャンルにも当然アレンジ、バリエーション、チューニングはあるのですが、それと同じぐらいの頻度でのイノベーションが起こっていて。その源泉にあるのは、今すぐ誰でも紙とペンがあれば作れるという敷居の低さです。ここをみなさんに体験してほしくて始めたのが、ドロッセルマイヤーズ・ワークショップです。
また、ボードゲームというのは、実はただ遊んでいる段階でもプレイヤーそれぞれが「面白さを作っている」といえるところがあります。同じゲームでも遊ぶメンバーやタイミングによって面白くなったりつまらなくなったりするというのはみなさんも感じられると思います。ということは、このゲームの面白さを成立させているのはゲームそのものではなくプレイヤーという考え方もできるわけです。遊びの参加者がイコール遊びを作る人でもあるという考え方を実践し、育てていくのがワークショップの狙いという言い方もできます。
このような「作り手として遊ぶ」「遊び手として作る」というスキルは、別にゲームクリエイターにだけ必要なものではなく、誰にでも役に立つことです。例えば、とある企業さんで社内研修という形でワークショップをおこなったことがありますが、普段ウェブサービスの企画をされている関係からか、クリアな思考と柔軟な発想を持っている方が多く、ゲーム制作もなかなかスムーズでした。そのときに、このワークショップで必要となるスキルはゲーム業界だけのものではないんだな、と改めて感じました。単なる仮想的なディスカッションではなく、最終的なアウトプットがあることがこのプログラムの特徴なので、特に娯楽やサービスを扱う業界の方が得るものは大きいと思います。
私が学生のころは、コンシューマーゲームが大作化の流れにまい進していたころだったので、ムービーやグラフィックがどんどんすごくなり、それこそハリウッド並みのスタジオが必要というぐらいに巨大化して、少人数でゲームを作るなんてとても想像もできないことでした。もしかするとその時期に少人数でゲームを作れる環境にあったのは、例えばPCの成人向け美少女ゲームだったのかもしれません。新しい才能が集まるための一番の条件は「自由さ」「手軽さ」「俺にもできそうな感じ」ですから、かつて成人向け同人ゲームから現在のアニメやラノベ、コミック業界を支える才能が排出されたように、ボードゲームに若い才能が集まる機運がでてきているんじゃないかとも思います。
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