単にゲームの要素で分析するなら、「嘘をつくスリル」と「それを推理して見破る快感」が人狼の面白さということになるんでしょうけど、嘘を主軸に置いたアナログゲームは海外にはたくさんあるんです。となると、そのなかで人狼が特別であり続けている理由は他にあると思ってます。ドロッセルマイヤーズが考える人狼の本質は“体験”です。勝ち負けを決めるゲームとしての機能は二の次で、本当にヨーロッパの田舎の村にいるような感覚で疑似体験をするというのが人狼独自の魅力だと考えます。
だからこそ、イベントとして人狼を扱うときは「どういう体験をさせたいか」の設計が一番大事だと考えています。『嘘つき村の人狼』のときはチームを家族に見立て、家族の中での協力関係、家族と家族の共存関係、それらが集まった結果として参加者全員がひとつの場を作る「共有体験」を一番重視していました。毎回イベント開始時には「村の祭」ということで全員で太鼓を叩いたんですけど、これは単なる賑やかしではなく「全員でひとつの体験を共有する」という『嘘つき村の人狼』が目指すものに対しての、非常に重要な演出なんです。
今回の『超・嘘つき村の人狼』で目指す体験はどんなものかといいますと、なにせ人数が数百人ですので、家族や顔見知り的なリレーションからは離れ、「見知らぬ群衆の中で、自分個人のサバイバルを試みる」という体験をイメージしています。いわば漫画「賭博黙示録カイジ」のエスポワール編にあった限定じゃんけんに近くなるわけですね。カイジでなくとも、見ず知らずの人たちが一堂に集められて「みなさんに死のゲームをしていただきます」というシチュエーションはある種のフィクションの定番ですが、いわばそれに限りなく近い感覚をもっていただくのが、『超・嘘つき村の人狼』の目指す「共有体験」ということになります。
どちらも、非日常的な体験を実際にできるという意味では共通していますけども、リアルとフェイク(虚構)の混ざり合い具合が違うとのではないかと思います。
脱出ゲームの場合は夜の遊園地とか廃校とか、そういうシチュエーション立てが一番重要なんです。なので、そこには本物の遊園地とか廃校を使うと。でもイベントの中で解く謎解き部分は、暗号だったりクロスワードパズルだったり、あくまで抽象化された「謎」であって、実際にどこかに閉じ込められたらこうだろうな、というリアルさはないですよね。いわばシチュエーションがリアルで、アクションはフェイクなわけです。
僕らがやっている人狼イベントはこの全く逆で、シチュエーションがフェイク、アクションがリアルなんです。例えば今回でいえば会場は幕張メッセですけど、そこで「ここはヨーロッパの田舎の村です」って言っても、全然村っぽくないですよね。でも、その中で行われる会話や騙し合い、疑心暗鬼の心理状態など、実際の行動にはリアルさがあり、説得力を生みます。なので、脱出ゲームと『嘘つき村の人狼』は真逆の関係性にあるんじゃないかと。一見すると近いところはありますが、それぞれに違う魅力があるのはこのためですね。
ニコニコ超会議2についてはもちろんドワンゴさんからお話をいただいたのですが、それ以前から「超大人数人狼」という構想はありました。2012年5月のゴールデンウィークに『嘘つき村の人狼』の追々加公演が終わったあたりからですね。
2012年11月に番外編として『嘘つき村の収穫祭』というイベントをやりまして、これはアメリカのゲームデザイナーであるシド・サクソン氏(※ボードゲーム「アクワイア」などを生み出したゲームデザイナー。故人)のアイデアをベースにした会話ゲームでした。
内容は情報収集と交渉のゲームで人狼とは全く異なるものですが、実は多人数で遊ぶ人狼を実現するための実験という目的があったんです。『嘘つき村の収穫祭』は何人でも、何分でも、だいたいどんな場所でも実現可能なイベントに仕上がりましたから、そこで得られたものをフィードバックすることで、数百人規模の多人数人狼を2013年のどこかで実施したいと思っていました。
そんな折にドワンゴさんから、ニコニコ超会議2超ゲームエリアのステージイベントとして人狼をやりたいというお話をいただいたんです。そのときにご提案いただいた企画は、ニコニコ動画の有名人達がステージ上で人狼をおこない観客がそれを観戦するというベーシックなものでした。でも普段の動画配信でも可能なことをやるよりは、超会議のようなユーザー参加イベントだからこそできることをしたいと思い、以前から考えていた大人数人狼イベントを提案しました。
それが逆に楽しみなところです。単独イベントとして『嘘つき村の人狼』を開催するときにも人狼を初めて遊ぶ方は何人もいらっしゃいましたが、今回はもっと完全に何も知らないお客さんが、当日会場をブラブラ歩いていて「今から始めますよ!」という呼び込みにつられて参加してくれるかもしれない。けど、そういった知らないがゆえの行動の読めない不特定多数を含んでこそ、生きたゲームが楽しめると思います。
なので、「人狼に興味があるけど、なかなか普段やる機会はなさそう…」という方がいたら、ぜひ参加していただきたいですね。一般的な人狼からはだいぶアレンジの入ったイベントですけど、だからこそ全ての参加者が初めて遊ぶゲームでもあるので、上級者も初心者もあまり関係なく遊べるはずです。逆に人狼ファンの方は、「俺、人狼を100人でやったことあるよ」って今後ずっとネタにできるぐらい(笑)、貴重な体験になるかと思います。
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