TED Conferenceも中日となる3日目の2月27日。面白いもので、だんだん会場で顔見知りが増えてくる。例えばスピーチを聞く観客席で隣になったり、ランチタイムにたまたま隣で食べていたり、会場のいろいろなタイミングで会話を交わすチャンスがあり、次にすれ違ったときにも言葉を交わす。
TEDには毎年来ていると言う人も多いが、年ごとに友人が増えていって、毎年アップデートを話す、という楽しみもまたTEDに参加する醍醐味になっているのだろう。
3日目は、1日中セッションが行われた。「Session 4:Disrupt!」(崩壊)、「Session 5:Dream!」(夢)、「Session 6:Create!」(創造)、「Session 7:Sustain!」(持続)という4つのテーマで、昨日のよりアカデミックな世界の問題解決に関するセッションから、クリエイティブやデザインの場面での葛藤や思考、問題解決などまでを披露するスピーカーが競演した。
現在3Dプリンタのデータの流通が始まっているが、デザイナーのAlastair Parvin氏は、家の建築もオープン化して流通させようという取り組み「WikiHouse」では、様々な家のスタイルがクリエイティブ・コモンズで共有され、自分の生活や土地にフィットする家のデータをダウンロードし、木材をCNCカットマシンで「プリント」して部品を作る。
出来上がった家の材料は、大人2人で組み立てられるようになっており、無料の建築デザインと、それをカットするだけで、自分たちの家が建つ。「今まで建築は裕福な1%のためのものだったが、建築を100%の人たちのものにできる」とParvin氏は訴えかけた。
クリエイティブ・コモンズは、世界を変える仕組みを作るツールとなっている。WikiHouse以外にも、ミュージシャンのAmanda Palmer氏のプロジェクトにも登場している。世界中にアイデアを広めたり、世界中からアイデアを集める際の重要な「共通認識」であり、雰囲気をすぐに共有する手段になった。
これを提唱したLawrence Lessig氏が登壇し、現在の米国の選挙は132人(人口の0.000042%)が60%の資金を拠出し、彼らのために行われていると指摘。マイクロファンディングなどを活用しながら、お金の論理ではない人々による政治を取り戻そうと訴えた。このことは決して米国だけの話ではなく、世界中の政治が抱えている問題点に対する示唆と言える。
また、今日も若い才能がたくさん出てきた。驚かされたのは今年2013年5月に高校を卒業するという17歳のTaylor Wilson氏。小型の原子力発電機を家で作って、お母さんに怒られるなんて体験をした子どもが果たして他にいるだろうか。格安の50メガワットを発電する発電機を工場の地下などに設置し、極限までダウンサイジングしながらよりスマートな電力供給を実現するというアイディアだ。高校卒業後は2年間、自分の会社に集中するという。
このほかにも、スケートボードにバッテリーとモーターを付けて軽快に街を移動できる「Boosted Boards」、テスラモーターやSpace XのCEOであるElon Musk氏など、具体的なプロダクトによって、問題解決の糸口を見せながらプロジェクトを進めるという姿を多数見ることができた。
「Session 4:Disrupt!」(崩壊)には、日本からのスピーカーが登壇している。ヨーヨーの世界チャンピオンを2度獲得したヨーヨーパフォーマー、Black氏だ。日本の梅をあしらった生け花を飾り、和服をイメージした黒い衣装で登場した。
冒頭のスピーチでは、ヨーヨーに関する情熱と挫折、再起のストーリーを披露した。自分が初めてのめり込めるヨーヨーを見つけ、熱中し、4年で世界チャンピオンになったこと。しかし日本に帰ってきても、なんら変わらぬ日常しか待っておらず挫折したこと。そのまま大学卒業、就職を迎えるが、再びヨーヨーを目指そうと会社を辞め、再びヨーヨーの世界チャンピオンの座を手にしたことなどだ。
Black氏が経験したストーリーに、会場には共感の渦が巻き起こる。そうしたなかで、パフォーマンスが始まり、自分が開発したいくつものヨーヨーの技と、バレエやダンスなどのトレーニングから自由度を手にした体の動きを組み合わせたパフォーマンスには、会場からも惜しみない拍手とスタンディング・オベーションが巻き起こった。
実は昨日2月26日の2日目に、会場ではいくつもの「Google Glass」をかけた人を見かけた。Google Glassはメガネ型の端末で、自分の視界に情報を表示し、音声で操作する新しいデバイスだ。現在は開発者向けに1500ドルで発売される予定だ。そのGlassをかけていた人は、なんとGoogle創業者のSergey Brin氏で、なぜか屋外でヨガのインストラクターをやっていて驚かされた。
筆者を見ながらBrin氏は「Glass, take photo」と一言。おそらく僕の写真が撮影されたのではないかと思うが、言葉による明示性はあっても、Brin氏の仕草や視線には何の変化もなかった。あまりに自然すぎて、むしろこれが最新のガジェットであることすら感じさせない点に、後から驚かされた。
そのBrin氏が3日目のステージに登壇した。ケータイやスマートフォンを操作するときは、片手が不自由になり、首をいつも下に向けていなければならない。Glassは両手を自由にし、より自然に情報を取得できると指摘した。「もう、検索キーワードを持たなくても良い」と語り、Google創業の際に目指した必要な情報があちらからやってくる世界の実現に近づこうとしている。
Glassはウエアラブルデバイスとして注目されるが、Brin氏はもう少し違うマインドセット、すなわち「つながりの未来」を語る。「携帯電話は神経質な習慣であり、たばこを吸うみたいに格好良くない」と指摘し、デバイスを変えることでインターネットを使う「所作」をより自然で、対面のコミュニケーションを阻害しないものにしていくことを目指している。
TEDのスピーチが行われる会場の外には、様々なサポーター企業がブースを出展している。参加者を楽しませる取り組みがたくさん用意されているが、見たこともない新しいサービスを用意している企業も少なくない。会場の外でも、未来を変える可能性のある製品やサービス、デザインに触れられ、これらを楽しむのも1つの醍醐味だ。
その中でもひときわ異彩を放っていたのが3日前にサービスをスタートしたglasses.comだ。このブースではiPadを使ったデジタルカタログからサングラスを選ぶ、という体験を提供しているが、カタログのモデルがすべて自分だったらどうだろう?
手順は簡単だ。カメラで正面、左向き、右向きの写真を撮影すると、自分の顔の3Dモデルを作成してくれて、サングラスのカタログと合成。すると、レイバンでもオークリーでも、サングラスの商品を掛けている写真は全て自分の顔になっていて、どれが似合うかが分かる仕組みだ。
3Dモデリングされているので、首を左右に振って、横顔とサングラスの様子を確認できる。また、サングラスを少しずらして雰囲気を見ることも可能だ。さらに、カタログの写真にはInstagram風のエフェクトを掛けることができ、「Instagram映えするかどうか」もチェックできる点は、今っぽい機能だと思った。
こうしてサングラスを選び、オーダー。2週間ほどで届くとのことで、ちゃんと似合うモノが選べていたかどうか、チェックしてみようと思う。
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