2012年のロンドンオリンピックは、初めてソーシャルメディアが大きな役割を果たす「ソーシャリンピック」になるという前評判だった。実際、現地からツイートする選手も多数おり、問題発言でオリンピックから放逐される選手まで登場した。
米国では、3大ネットワークのひとつNBCが12億ドル近くでオリンピックの独占放映権を取得し、競技は、同ネットワークの6局で放映され、かつネットではライブストリーミングが提供された。
ロンドンでの競技は、米国時間の昼間に行われたため、NBCでは視聴率を稼ぐために、人気競技は生中継ではなく、夜のゴールデンタイムまで放映しなかった。昼間は、乗馬やバレーボール、サッカー(金メダルを取った女子サッカー決勝戦も)など、米国では人気のない競技ばかりが生中継された。フェルペスやボルトのメダル連覇など、すでに世界的にニュースになっているにもかかわらず、米国ではまだテレビで放映されていないという事態が続き、視聴者らの怒りが炸裂した。
怒った視聴者らは、TwitterやGoogle+などでNBCに対する批判を投稿し、#NBCfailがトレンド入りすることとなった。
「そう、僕は、世界一俊足の男が走るより、馬が跳ねるのを見たかったから。上出来。#NBCfail 誰かのクビが飛ぶべき!」
「ボルトが勝つのにかかったのはわずか9.6秒だけど、NBCがそれを放映するまでに9.6時間もかかるとは。#NBCfail」
NBCをTwitter上で批判した英大手新聞の米特派員が、Twitterのアカウントを凍結されるという事態まで起き、NBCに対する批判は、従来メディアにも広がった。さらには、#BoycottNBCというハッシュタグまで登場した。
ゴールデンタイムに、やっとオリンピックが放映されても、ジェームズ・ボンドの話など関係のない話を流し、すぐには競技が放映されない。「#NBCfailは、陸上100メートルを生中継しなかったばかりか、夜の放映をダイビングから始めるとは!」というツイートが流れたように、目玉競技は10時ごろまで放映されなかった。
そのため、「子供が体操競技を見たがっているけど、夜遅くまで起きていられない」「オリンピックは見たいけど、8時間前に起こった出来事を見るのに夜中まで起きてないといけないなんて」──といったツイートが流れた。
放映独占権に大金をはたいたNBCとしては、どれだけ批判されようとも、元を取れるよう、広告料が一番高いゴールデンタイムに放映する方針を崩さなかった。テレビでの放映は、広告が非常に多く、広告の合間に競技を見ているような感じで、かつ、競技よりも目立とうとするナレーターがうるさいので、物静かにすべてが見られるライブストリーミングに慣れると、テレビでの中継は見るに耐えない。
ネット上でストリーミングにアクセスするには、有料のCATVに加入していることが条件だった。有料のCATVでも、ストリーミングではやはり広告は頻繁に流れた。さらに、ネットのストリーミングは凍りまくり、30分ほど、まったく映らないときもあった。競泳や陸上短距離では、ゴールの前に映像が凍って、結果が見られないといった事態が、毎日のように起きた。そして、ゴールを見届けた米国外の視聴者らがリアルタイムで流すTwitterで結果を知るという苦い思いをするのだった。中には、「ストリーミングが凍ったので、誰かTwitterで実況中継して!」とツイートする人もいた。
一方、英国のBBCではネットで24のライブフィードを提供し、閲覧にはCATVへの加入も必要なかった。ただし、サイトにアクセスできるのは英在住者だけ(NHKのストリーミングも海外からはアクセスできなかった)。NBCに辟易したアメリカ人には、プロキシサーバを立てるなどして、BBCのストリーミングにアクセスする人も登場し、その方法もソーシャルメディアで共有された。
公共放送のBBCではコマーシャルも流れないことから、Twitterでは#BBCwinというハッシュタグも流れるようになり、主要メディアでも、マイナーな競技も放映し、視聴者に閲覧の選択権を与えるというBBCのやり方を称賛する声が聞かれた(NBCは、BBCやNHKのようにスーパーハイビジョンでもなかった)。
方々から叩かれ、「ソーシャリンピック」というのは、NBCがソーシャルメディアで叩かれることだったのかと思えるほど、NBCにとって事態は最悪のように見られた。しかし、オリンピックが終了してみると、2億2000万人近くが視聴するという、米史上最高視聴率を記録するテレビ番組となり、北京オリンピックやアトランタオリンピックのゴールデンタイム平均視聴率もわずかに抜く結果となった。結局、NBCの戦略は功を成したということか。
もちろん、視聴者の反応は、「『文句を言いながらも、結局、皆、NBCを見た』って、それはそうだろ、NBCの独占放映なんだから。こっちには選択肢なし!」
@getglobal(日本語) @TweetinEng(英語)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス