ジャパンベンチャーリサーチ(JVR)は8月6日、近年、米シリコンバレーでシード期のベンチャー企業の資金調達手法として普及しつつある「Convertible Note」をまとめたレポートを発表した。
Convertible Noteは転換社債の一種。「株式への転換価格」を明確に定めずに資金を貸し付け、その次の資金調達時にその貸付金を株式に転換するもの。株式と異なり、対象企業の評価額を定める必要がなく、株式よりも契約にかかる時間的、金銭的コストが小さいという利点がある。
Convertible Noteでは「株式への転換価格」の値をあらかじめ定める代わりに、「次回増資時の転換価格を株価の△%とする」という「Discount」と、「次回増資時の転換価格は◯円を上限とする」という「Cap」の指標が用いられる。
これらの指標は、シード期にリスクをとって投資するエンジェルなどの投資家からの要求に応じて、次回増資時の投資家よりも有利な条件で株式に転換できるようにしたもので、Discountは、投資後に事業が上手くいかず、次回増資時の評価額が高くならなかった場合に、Capは、次回増資時の評価額が非常に高くなった場合に有効だという。
またConvertible Noteは、起業家にとっては、投資家が契約に同意するごとに投資額が入金されること、投資家にとっては、清算時における優先順位が高いこと、起業家側に次の資金調達を促す効果があることもメリットとなっている。
米国の法律事務所Fenwick & Westの調査によれば、米国企業でのシード期の資金調達における優先株とConvertible Noteの利用の割合は、2010年が69%:31%、2011年が59%:41%で、Convertible Noteの利用率が高まっている。
調達額(中央値)を比較すると、2010年が66万2500ドル(優先株105万6000ドル)、2011年が100万ドル(同100万ドル)。投資家が取締役に就任した割合は、2010年が8.3%(優先株72.5%)、2011年が4%(同70%)となっている。
日本のスタートアップ企業がConvertible Noteを利用した事例は、全て米国で登記した企業で、シリコンバレーの投資家もしくは米国につながりを持つ日本の独立系のベンチャーキャピタルから資金を得たケースだった。どの事例も当初からグローバル展開を狙っており、米国デラウェア州などで登記した後、シリコンバレーで資金調達するため、現地で主流のConvertible Noteを利用したという。
今回の調査では、日本で登記している企業が日本国内だけでConvertible Noteを利用した事例はなかった。その背景には、(1)法律や税務などの制度がConvertible Noteに対応していない、(2)投資家側のConvertible Noteを用いた新しい投資手法に対する抵抗、(3)起業家が得られる情報の不足・外部資金調達への抵抗――といった要因が想定される。
日本国内でのConvertible Note利用については、投資家の要因が大きく、たとえ起業家に教育を施しても普及する可能性は低いという。一方で、ベンチャーキャピタルのファンドに投資が集まらない状況が改善し、安定を求める若者が起業にチャレンジしていく傾向が強まれば、さまざまな資金調達のニーズが生じ、Convertible Noteにも普及の可能性が生じるという意見もある。
日本で独立系のベンチャーキャピタルが積極的にConvertible Noteを利用し実績を積んでいけば、銀行系など子会社として機能するベンチャーキャピタルも親会社に説明がしやすくなり、Convertible Note利用に対する抵抗も薄れ、広く普及する日が訪れるのではないか、としている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス