デジカメ「EXILIM」10周年の軌跡--それは“カメラ付きテレビ”から始まった(前編)

 昨今、さまざまなデジタルカメラが発売されているが、その歴史を紐解くと1台のカメラへと辿り着く。業務用ではなく、一般向けのデジタルカメラとして1995年3月に発売されたカシオ計算機のQV-10である。

 実はQV-10の発表・発売以前にも“デジタル記録式のカメラ”は国内外で発表されていた。従って、QV-10は世界初のデジタルカメラではない。だが、昨今のデジタルカメラの原型を作ったのは間違いなくQV-10だ。

 背面に液晶モニタを備え、撮った後すぐに確認できるという現在にもつながる、デジタルカメラの利点をいち早く実現したまさにエポックメイキングな機種なのである。

 フィルムカメラ全盛の時代、純粋なカメラメーカーではないカシオ計算機が、如何にして“デジタルカメラ”を生み出したのか。QV-10からヒットシリーズの“EXILIM”へと続くその歴史について、カシオ計算機 執行役員 QV事業部長の中山仁氏に話を聞いた。

--EXILIMが発売されてから今年で10周年を迎えます。ひとつの節目とも言えるタイミングですが、その歴史についてお伺いする前に、まずは御社のデジタルカメラの歴史について教えてください。

  • カシオ計算機 執行役員 QV事業部長の中山仁氏

 弊社のカメラというと、1995年の3月に発売されたQV-10を思い浮かべる人が多いと思います。実は、私自身が商品企画を担当しておりまして、発売から17年もの間、弊社ではデジタルカメラ一筋で関わってきました。QV-10の発売は1995年ですが、企画は1991~1992年にスタートしています。その頃、他社では既に“業務用”のデジタルカメラが開発されていましたが、それらに対抗して“業務用”を“コンシューマ化”しようだとか、銀塩をデジタルに変えるんだという意識はなく、“新しいコミュニケーションツール”を作りたいと思ったのがきっかけでした。

 当時、我々はポケット液晶テレビを手掛けていまして、せっかくキレイなTFT液晶を持っているのだから、もっと活用しようと。液晶にさまざまな情報を表示させたい、その手段のひとつとして、カメラに注目しました。

  • “コミュニケーションツール”といった位置づけで開発されたQV-10。1995年3月に発売

 撮ったものがそのまま映る──そういったものが、弊社におけるデジタルカメラの発想の原点になります。ですが、その当時弊社では“カメラ付きテレビ”というテーマ設定を行っていました。液晶テレビの展開のひとつとして考えられていたからです。

 しかし、社内で議論を進めると、どうしても画素と値段の話になり、そうなるとカメラは“+α”のおまけになってしまう。だったらいっそのこと“画像を入力するツール”という新しいコンセプトに切り替えたらどうか、ということになりました。そこで着目したのがパソコンです。ですから、その当時はまだデジタルカメラを作ろうとは思っておらず、PCに画像を入力するためのツール、あるいは、撮った写真をすぐに確認できるといった“コミュニケーションツール”といった位置づけでQV-10を開発していました。1995年というとWindows 95が発売され、PC分野が活発な時代でしたから、PCの周辺機器として認識・評価されていたと思います。

--確かにQV-10は、RS232Cケーブルやビデオケーブルを利用してパソコン・テレビへの出力が可能でした。それが元々のコンセプトだった“カメラ付きテレビ”の“名残”だったというわけですね。

 その通りです。QV-10はどちらかというと、“カメラ付きテレビ”から最終的にチューナーだけ取り外した形になります。“撮った画像をテレビに繋げて楽しもう”という目的がありましたから、カメラ文化である“プリント”よりは“映像出力”に力を入れていました。

 実は、弊社の開発部隊が一度、1991年ごろだったと思いますが、電子スチルカメラを製品化したことがあります。入力した画像をアナログの状態でフロッピーディスクに記録するものでしたが、これがまったく売れませんでした。

 ソニー「マビカ」の発売後、各カメラメーカーが一斉に同じようなものを出したわけですが、どこも同じような状態だったと思います。失敗の理由は「(サイズが)大きい」だとか「(値段が)高い」だとか色々考えられますが、その当時、カムコーダーが小さくなりはじめたタイミングでしたので、「音が残せない」「静止画をテレビに出力する機器」なんていうのには魅力がなかったんですね。

“あつこ(厚い)”と“おもこ(重い)”--2つの試作機

 弊社の製品は発売当初12万8000円だったのですが、最終的には3万9800円、2万9800円と値下がりし、しかもそれでも売れない。惨憺たる結果でした。それでも、開発部隊が細々と“いつかデジタル製品をだしてやるんだ”という意気込みで試作を続けてきました。開発費もない状態、有り物で作らなければならないという環境で、かなり大型ではありますがデジタルカメラの試作が出来上がりました。その時、試作は2つあり、“あつこ(厚い)”だとか“おもこ(重い)”とネーミングされた──まぁ、そういった試作しか作れなかったわけです。

 また、試作機には出力端子があり、試作機の上に載せた液晶テレビで画像が確認できるようにしてありました。試作機には当初ファインダーがあったのですが、ファインダー部近くにファンを入れないと熱過ぎて利用できたものではないと。だったらそんな使い物にならないものは取り外してしまおうということになり、じゃあファインダーがないならどうやって画像を見るのかという議論の末、液晶で見るというスタイルが生まれました。

 こうして出来上がった試作機で撮影してみると、撮影したものがすぐに確認できて楽しめる。これは、今までのカメラにはない“新しい楽しみ方”だということになり、どうにかしてより具体的な形にならないだろうかと思っていました。

 弊社では電子スチルカメラの失敗により、“電子カメラ”や“カメラ”というのは、ある種のタブー視されていまして、そのことを踏まえてQV-10というのは、デジタルカメラとは“あえて”いわずに“カメラ付きテレビ”と説明していたのです。

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