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音楽権利者らが提供する新たな違法音楽配信対策「Fluzo-S」の本質

岩本有平 (編集部) 高瀬徹朗2012年07月20日 17時44分
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 6月に違法ダウンロードの刑罰化やリッピングの違法化を盛り込んだ改正著作権法が可決された。この動きと同じくして、日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本レコード協会(RIAJ)をはじめとした音楽権利者6団体2社が違法音楽ファイルの特定モジュール「Fluzo-S」を発表している。

 Fluzo-Sは、著作権情報集中処理機構(CDC)が運用する管理楽曲のデータベース「Fluzo」を活用し、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や掲示板などのサービスプロバイダーが違法楽曲のアップロードを特定・処理しやすくするためのモジュールだ。

ネットユーザーから反発を受けたシステムの「正しい内容」

 この仕組みが発表されるやいなや、ブログやソーシャルメディア上では「違法ダウンロード厳罰化を補助するツール」「通信の秘密を侵す違法システム」といった反発の声が上がった。だが詳細に内容を確認してみると、ここに多少の勘違いが含まれていることがわかる。

 まず、同システムはISPが「利用規約どおり」の運営を行うために導入を勧めるものであり、違反者を特定し追い込む類のものではない。「児童ポルノやドラッグ関連のコンテンツと同様、各ISPは著作権を侵害するコンテンツの流通についても利用規約上禁止している。その意思をより徹底していただく意味で、そうした不正流通自体を抑制できるシステムをこちらから提供するということが目的」(JASRAC業務本部 副本部長・小島芳夫氏)。

 違法アップロード対策はこれまで、権利者自らが確認し、所定の手続きをもって削除要請を出すという形で行われてきた。権利者がISPに対して「違法アップロードに関わっているユーザーのIPアドレス」を提供し、警告を行うケースもあるという。このような取り組みをある程度自動化するとともに、IPS自体に一定の責任を持って処理するよう自覚をうながすことが推進の狙い、というわけだ。

 また、懸念される「通信の秘密」についてはシステム上、「まったく侵害に当たらない仕組み」(小島氏)だという。Fluzo-Sでは、アップロードされてサイト上で閲覧可能となった段階のファイルについての違法性をデータベースに照合・判別するものであり、アップロード時の回線やアクセスを監視するものではない。いわば「目視の自動化」であり、電子通信事業法への抵触はおろか、個人情報保護の観点からも何ら問題ないとしている。なお、Fluzo-Sの機能は「違法ファイルの特定」まで。削除まで自動化することも可能だが、その判断はISP事業者に委ねられるそうだ。

 「システムの導入を強要するつもりはないが、違法音楽配信が顕著であることが明白にも関わらずこちらからの指摘を受けるまで放っておくという姿勢はISP事業者自身のコンプライアンスの観点からも許されるべきではない。厳正な削除作業を進めていただくための手段として、安価にシステムを提供しますというのが我々の姿勢」(小島氏)。

 プレスリリースでは、無料レンタル掲示板サービス事業者など特定のISPへの導入を推進するとしているが、この対象となるのは、いわゆる接続事業者など大手ISP事業者ではなく、ユーザーがファイルをアップロードできる領域を持ちつつ、公開が可能なホスティング事業者がメイン。こうした事業者の「正常化」を促すことで、改正著作権法施行後に考えられる「違法と知らずにダウンロードしても犯罪になる」というケースを打ち消していくことも狙いのひとつだとしている。

 「(ダウンロード違法化を定めた2010年の)改正法施行後においても、違法と知りつつアップロードする側に問題があることは明らかであり、処罰するにしてもそちらを厳重に取り締まることが重要であることに変わりはない。一方、交通違反で取り締まりを受けた際に『駐車違反の標識が見えなかった』と説明しても通用しないのと同様、法整備された後に『知らなかった』では通らなくなる。楽曲配信の正しい運用を目指すためにも、こうしたできる限りの努力は必要」(小島氏)。

事業者からも疑問の声が

 違法ファイル自体をアップロードされた時点で特定・削除する仕組みを推進することにより、こうした「不幸な出来事」を減らす効果も期待できる同システム。事業者自体は「概ね好意的に受け止めている」(小島氏)と話すが、現状でネットユーザーから理解を得られていないのも事実。

 またCNET Japanが独自にISPや掲示板サービス事業者などに対して導入状況を問い合わせたところ、現時点での導入を確認できた企業はなかった。事業者からは、「そもそも規約で違法なコンテンツのアップロードは禁止しており、ユーザーへの警告や削除は通常業務。『(違法ファイル検知に)協力してくれ』という上で『利用するならお金をくれ』というのはいかがなものか」「システムを導入してもサービスが安定稼働するのか」といった疑問の声も上がった。

 違法ダウンロード阻止に向けた啓蒙啓発活動にも取り組んでいく中、こうしたひとつひとつの事象においてユーザーの理解を深めていくことができるか。JASRACはじめ、各権利者団体による今後の真摯な対応が期待される。

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