放送番組における音楽使用許諾契約に関する独占禁止法違反(私的独占)排除措置命令をめぐる、公正取引委員会(公取委)と日本音楽著作権協会(JASRAC)の長期にわたる戦いは、命令取り消しを求めたJASRAC側の勝利という形で終結する見込みとなった。
公取委がメスを入れようとしたのは、JASRACと放送事業者間で結ばれている包括許諾契約について。放送事業収入の1.5%を毎年支払うことで楽曲が利用し放題となる契約だが、JASRACが管理する楽曲以外を利用する際には別途支出が求められることとなり、結果として他の音楽著作権管理事業者の参入を阻害しているというのが大まかな指摘だ。
この排除措置命令に対し「事実誤認である」と反論したJASRACとの間で公取委審判がスタートしたのが2009年5月。そして、命令取り消しという異例の審決案が送られるにいたる流れを決定づけたのが、2010年9月の第9回審判だった。
この回の参考人として出廷したのは、「参入を阻害された張本人」として命令書にも名前のあがっていたイー・ライセンス代表取締役の三野明洋氏。前半の公取委側の審尋では、放送局が「追加負担の認識をもっていた」事実を証明すべく、当時出回っていたとされるラジオ局内部文書や民放連担当者との生々しい会話議事録などが証拠として提示され、「意欲を持って参入に臨むも業界の慣習に阻まれ撤退せざるを得なかった悲劇の記録」を印象づけることに成功していた。
ところが、JASRAC代理人からの反対尋問が始まると、流れが急転する。事業参入開始前に示された管理楽曲リストに未定曲・予定曲が多数含まれていたこと、使用全曲目報告を義務づけておきながら、報告用統一フォーマットが用意できていなかったことなどが「放送事業者が楽曲利用を見合わせるには十分な理由」(JASRAC代理人)と指摘された。さらに、報告漏れのペナルティに通常料金の9倍を請求するという仕組みをとっていたことが「リストがあいまいなことを含め利用回避に足る状況」と断じられた。
何より決定的だったのは、利用回避の実例として訴えていたある歌手の楽曲に「128回の放送実績がある」と指摘されたこと。このとき、三野氏は「そのデータを検証していないためわからない」と明言を避けたが、裏を返せば「管理事業者でありながら、楽曲の使用状況をまるで把握していなかった」ことになる。そして、その実態を把握しないまま排除措置命令を出していた公取委もまた、ここから逆風にさらされることとなった。
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