プロジェクトの取りまとめ役として関わった山下氏は、空間情報科学という目に見えないを説明しなければいけないところで、どのようにしたら伝わるかを科学未来館の方々が非常に悩んでいたことを述べ、最初は物語があれば伝わるのではと話されていたという。しかし、「ただ物語りを付けるだけで解決しないだろうと思ったんです。そこで犬飼が関わるゲーミフィケーションの部分と、飯田さんによる独特な物語や演出を使っていったほうがいいと。でゲームクリエイターが力を発揮できるところがあったんです」と語った。さらに科学の未来を伝えるとしたら、情報科学におけるアルゴリズムを伝え、さらにモラルやメッセンジャーといった要素も伝えないといけないと感じたという。
飯田氏も別の機会に科学未来館から提案を受けたとき「情報の森というファンタジー世界があって、精霊に語りかけると情報科学を語りかけてくれるという案だったんです。そこから大きくずれてないんですが、テーマパークなどの既視感があって、新しい体験として理解してもらうには厳しいし、展示としてイケてないと思ったんです」と、そこでダメ出しをしたところ、このプロジェクトに参加することになったという。
本展示では「しあわせにする」というキーワードがある。これは一般の方にわかりやすい言葉として使ったもので、本展示会の目的として「社会を良くする」というのがあるとのこと。飯田氏は「社会って何? さらに社会という定義できないものを良くするというのはどういうこと? ということをいろんな人に聞いてまわったんです。そこで思ったのは社会とは人と人と人、すなわち人との繋がりなんです。そして良くするということは、そのコミュニティが維持できること、生存することなんです」とした。
その象徴を「しあわせという装置が歌を歌う」としていることについて犬飼氏は、ある組織を維持していくときに、大事なメッセージを歌にのせて歌われることが多くあり、言葉では表現できないような思いを、本能的に歌になってしまう。それは幸せのひとつの形とした。
「アナグラのうた」のスペース内では、しあわせの装置による歌う以外にも、環境音として「ポーンポーン」という音が常時鳴っているなかで、たまに小鳥のさえずりやアコースティックギターによる「ポロロン」という音が鳴り響く。これも決められたタイミングで流れるのではなく、館内の人の行動や音を反映させているという。
中村氏は音楽制作のエピソードについて「構想やイメージをもらって、これから作ってみようかと思っていたタイミングで震災が起こったんです。そこで展示制作も立ち行かなくなって、チームのみなさんがイライラしていたのを感じていて。そこで試しに、遊びで作っていた『なぎ -nagi-』というサウンドシステムを使った音を、犬飼さんや飯田さんに聞かせたんです。サイン波(正弦波)のサインカーブをなだらかな波の中で安定させてた音を発して、メディテーション効果を与えるというので。そうしたらこれを使いましょうということになりました」と語った。
ほかにも中村氏はしあわせの装置が歌う曲などを制作。歌詞は自動生成されて歌うというものになっているが、これらを再構成したCD「アナグラのうたのうた」がブレインストームより7月15日に発売された。CDにはアナグラのうたのストーリーを歌詞にのせてボーカロイドが歌う10曲に加え、上記で説明した環境音をそっくり再現したアンビエントサウンド、特別な条件がそろったときにしか聴くことのできない「まつりのうた」などを収録している。このまつりのうたは「みんなで起こしてみんなで歌って、情報共有しよう」と宣言をするモラルの延長という位置づけだという。またこの曲は館長の毛利衛氏をはじめ、科学未来館のスタッフもコーラスで参加している。
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