ソーシャルとオープン価格で業界の変革目指す米国人ミュージシャン

岩本有平 (編集部)2012年06月07日 19時44分

 日本の名曲を日本語で歌っている外国人がいる――まだYouTubeの知名度がそれほど高くなかった5年前、「ネルの1コーラスシリーズ」と題して、日本語で歌う動画を次々にアップロードする外国人に注目が集まった。

 動画の再生数は20万回以上。YouTubeの音楽カテゴリのチャネルでは1番の人気を誇っていたその動画のアカウントは、著作権侵害のため削除された。YouTubeがJASRACとの包括契約を結ぶわずか3カ月前の出来事だった。

 その人物こそが、ネルソン・バビンコイさん。日米混成のインディーズバンド「nothing ever lasts」を率いて日本で活動する米国人だ。6月6日に劇場版「ライバル伝説 光と影」の主題歌となる新曲「My pain, My way」を発売した。楽曲はiTunesbandcampなどで販売する。

 また、6月7日よりクラウドファンディングサイトCAMPFIREにてプロジェクトを掲載。自主レーベルの全国ツアーに向けた支援金を募っている。


ネルソン・バビンコイさん

交換留学生で日本を強く意識

 「友人の誕生日パーティーで、SMAPの『オレンジ』という曲を歌って欲しいと言われて。練習のためにビデオカメラで撮って、何気なくYouTubeに投稿したのがきっかけ。反響にびっくりしました。街で『YouTubeで歌っている人ですよね?』と何度も声をかけられました」――ネルソンさんは流ちょうな日本語で当時を振り返る。

 ネルソンさんは米国カリフォルニア州バーバンクの出身。カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)でコンピュータサイエンスを学んだ経験もあるエリートだ。「まるで映画『ソーシャルネットワーク』の世界でした」(ネルソンさん)

 現在26歳のネルソンさんだが、日本に初めて来たのは15歳のとき。群馬県太田市に交換留学生として来日した際、ホストファミリーや日本人の友人が温かく迎えてくれたことに感動し、「俺の居場所はここだ、日本に住むんだ」と強く思ったのだという。短い留学が終わってからは、学校の休み時間などあらゆる時間を使って日本語を学んだ。

 その後名門UCバークレーに入学し、コンピュータサイエンスを学ぶも、「このままずっとプログラミングだけして、一生PCの前で働くのだろうか」と迷い、改めて日本語を学ぶことを決意。慶應義塾大学に留学生として再び日本にやってきた。

 「米国だと、ストリートで演奏するのはプロのミュージシャンかホームレスくらい。腕試しのように歌う人はいなかった」(ネルソンさん)とのことで、路上ライブにも積極的に挑戦した。路上ライブをしている中で日本の音楽事務所からスカウトを受けるが、「歌も演奏も日本語も下手。でもルックスだけいい」の評価を受け、日本人の女性とユニットを組むことになった。最終的にビザが下りず、デビューには至らずに帰国することになったが、「神様に『おまえは音楽じゃないよ』と言われたような気分だった」と語る。

 だが、YouTubeでの反響から、改めて音楽の道を目指すことにした。「UCバークレーに戻って、日本人留学生の世話役をやっていた際、初めて出会った留学生に、『あのYouTubeの人!』と声をかけられる。画面の向こうは見えないからまったく実感がなかったけど、それでも応援してもらえるなら、メッセージをもらえるなら、もうやるしかないと思った」(ネルソンさん)。そして大学を卒業して改めて来日。英会話教室の講師からアニメのナレーション、芸能とその活動の幅を広げつつ、一方で音楽活動も本格化させた。

ウェブサービスでミュージシャンのビジネスを模索

 nothing ever lastsは現在、その音源のすべてを自作曲の音楽共有サービス「Sound Cloud」を使ってストリーミングでフル視聴可能にしている。ライブ音源に関しては、無料ダウンロードもできる。ライブについても無料化プロジェクトを開始した。


nothing ever lastsのライブの様子

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