タブレットやスマートフォンはもうユビキタスそのものだ。そんな時代に各社のIR部門も対応する。この4月、米小売り最大手ウォルマート・ストアーズは、iPhoneやiPad、Android向けのIRアプリを導入した。
その前後の話を有力IR業界誌『インサイド・インベスター・リレーションズ』電子版(4月19日)がリポートし、各国のIR関係者から注目を集めた。
その記事は、IR担当のキャロル・シューマッハのコメントから始まった。「個人株主や機関投資家、セルサイドのアナリストなど多くの方がたが個別ミーティングや説明会の場でiPadなどを持参されている光景を目にします。そこで、ずっとアプリを用意したいと思っていました」というのだ。
このIRアプリの作成は6月に開催する株主総会を意識したものだ。アーカンサス大学バド・ウォルトン・アレーナで開催されるウォルマートの株主総会は、例年、他社とはケタ違いの規模だ。
とくに今年はウォルマート1号店が開業して50周年でもあり、1万5000人が参加するとみられている。
ウォルマートは、IRアプリとともに、昨年に続いて多くのビデオ動画を盛り込んだオンライン・アニュアルリポートも作成している。
記事は「この2つのウェブのコンテンツが株主総会を控えた株主向けIRのキー・コンテンツである」と指摘する。
ところで、長年にわたって米企業は、株主総会の前に関連資料を各株主に送付してきた。
例えば、米証券取引委員会(SEC)に届け出るアニュアルリポートとは別に、CEO(最高経営責任者)などのメッセージを載せた株主向けのアニュアルレポートも、その1つとして郵送されていた。
それが、2007年7月、SECが採択した「通知とアクセス」(Notice and access)規則で大きく変化した(施行は2009年1月)。
この規則によって総会資料を自社のウェブサイトに掲載し、別途、株主にはウェブサイト上で閲覧できるとの通知を郵送する方法が認められたのだ。
もちろん、株主が求めればプリント版は送付される。この規制緩和が株主向けコミュニケーションを一新する。
記事に戻ろう。ウォルマートの場合、5年前に270万部も株主に送付したプリント版資料は70万部に減少したという。
オンラインは使い勝手やスピード、経費の点で優位に立つ。そして、このコスト削減が、ウェブの特徴を生かしたオンライン・アニュアルリポートの立ち上げ予算に結び付く。
昨年、ウォルマートは初めてオンラインを作成した。経営幹部数人によるビデオ動画も盛り込んだ。今回の2012年版では、CEOのマイク・デュークは「もっといいものを!」とゲキを飛ばしたという。
「私たちの目的は、ウェブサイトを充実させ、株主にプリントの文書よりもウェブを見てもらうことにあります」(前出のシューマッハ)。
つまり、IRO(IR担当責任者:IR Officer)の仕事にプロデューサーとディレクターの業務が加わったのだ。
カメラに向かって話をすれば、ウェブを見る人たちはあたかもそれぞれ自分に向かって話しかけられているかのように感じる。そんな配慮が求められる。
台本もないので、画面に登場する幹部はカメラの後ろからインタビューするシューマッハに自然な感じで応じているように見える。
このアニュアルリポートのデザインは、この6年間、同社のプリント版を作成してきたコーポレート・リポーツが担当し、オンライン版の作成は、ウォルマート本社にある自社のTVスタジオで行われ、ウォルマートのプロダクション・スタッフが参加したという。
今回のIRアプリの作成もコーポレート・リポーツが担当し、ウォルマートは、これから1年の間に、財務関連のニュースや業務の進展などを中心に数回の更新を行う予定だ。
最後に記事は「ウォルマートのIR部門が掲げる次の課題はソーシャルメディアである」と書き込んだ。
ウォルマート自身はすでにコーポレート・コミュニケーション部門の幹部もツイッター・アカウントを開設し、ツイートしているように、ソーシャルメディアを多用している。「IR担当者によるツイッター利用は視野に入っている」(シューマッハ)というのだ。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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