ソーシャルメディアの勢いに戸惑うIR担当者が少なくない。その戸惑いの多くは、法律や取引所の開示規則などわからないことが多すぎる、時間がない、何から始めればいいのかわからないというものだ。
Facebook、Twitter、LinkedInといったソーシャルメディアそのものに対する不安もある。そのためか、ソーシャルメディアを利用している企業はまだまだ限られる。
米西海岸有力紙サン・デイエゴ・ユニオン・トリビューンに1月30日、IRコンサルタントのアビ・ウィシナ氏が「ソーシャルメディアをIRに利用するやり方」と題する記事を寄稿した。
その中で、こうした不安を取り上げ、ソーシャルメディアを株主や投資家と直接コンタクトできるウェブツールとしてとらえるのがよいと論じた。
ウィシナ氏によれば、たとえば、現在のサイトに新たに「マネジメントに質問する」というページを用意して、ウェブで投資家から質問を受け付け、その回答を誰でもアクセスできるIRサイトに掲載しようというのだ。
こんなやり取りをする中で、決算説明会の電話会議を開催する前に投資家からの質問を受けることもできる。
ウェブサイトで質問を受け付けることに不安をもつ向きもあるかもしれないが、質問そのものは電話による質問と変わらない。後でサイトに掲載する回答も電話での回答と同じだ。サイトで質問を受け付けて回答すれば、電話に比べて費やす時間は大幅に節約される。
そして、これにはもう1つの効用がある。それは株主や投資家が、こうした質問と回答をコピーし、インターネットのメッセージ欄に投稿して、自社の情報が伝搬していくことである。
同様に、ウィシナ氏が取り上げたのはCEO(最高経営責任者)のブログである。これはブログの発信によって、ニュースメディアを入れないで投資家と直接コミュニケーションすることだ。
月1回のブログであっても、CEOからニュースリリースで発表済みの情報について、さらに詳しい説明を行ったり、自社の事業計画や商品や製品、業界動向について話してもらうことも可能となる。
ブログに投資家のコメントがあれば、これは企業の言い分に対する回答でもあり、じつに有用である。
ブログは「ちょっとまだ」という向きもあるかもしれない。しかし、これはニュースリリースを別の格好で発信することだと考えたい。ブログは紋切り型のニュースリリースとは違い、語りかけるスタイルを採用し、新たなコストも発生しない。
注意したいのは、ブログの内容が発表済みのニュースリリースや米証券取引所(SEC)への届出と食い違っていないことを確かめておくことである。
そしてウィシナ氏は、ツイッターについては、何の心配もいらないとする。ツイッターは、新しいブログの掲載やニュースリリース、SECへの届出文書やウェブサイトの更新といった株主や投資家の関心を引き付ける便利なIRツールとして考えればいいのである。
使い勝手はいいし、公開済みの開示情報を投資家に告知するツイッター利用なら公平開示規則(FD規則)で何の問題もない。
ウィシナ氏の議論は、ソーシャルメディアはこれまでのIR活動の一環であり、何か特別なものとは考えないということなのだ。
これが、ソーシャルメディアをIRに採用するやり方のコツなのだ。さらに言えば、これからのIRは、以前のようにプレスリリースを発信して、メディアが採用してくれるのを待ち望むだけでは十分ではないということである。
自社サイトで、ソーシャルメディアツールを使って、株主や投資家と直接、双方向の話をする時代がやってきたのである。
◇ライタプロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
埼玉学園大学経営学部教授。全米IR協会(NIRI)会員。埼玉大学大学院客員教授。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)、「個人投資家と証券市場のあり方」(共著、中央経済社)。最近の寄稿に「~アニュアルリポートの現状を明かす~ 全米IR協会の実態調査、英国IR協会のガイドライン」(「広報会議」2011年4月号)
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