6月12日から15日まで、米フロリダ州オーランドで開催された全米IR協会(NIRI)の年次大会。世界中から駆け付けた参加者は約1300人。昨年以来、NIRIのイベントではIRコミュニケーションといえばソーシャルメディアといった具合に話が及んできた。
今回の年次大会でも、2日目に開催された「投資コミュニティのデジタルメディア利用」と題するワークショップに200人を超すIR関係者が会場に集まる盛況ぶりだった。
というのも、1)ソーシャルメディアを利用する企業の状況、2)アナリスト/投資家の情報入手の方法、を明らかにするための2つの調査結果が用意され、パネラーにソーシャルメディアの活用で先行する米コンピュータ大手デルのIR担当者が加わっているからである。
調査結果の1つは、この5月、米有力サイトコンサルティング会社Q4ウェブシステムが発表した「IRにおける公開企業のソーシャルメディア活用」である。北米と欧州を中心にオーストラリアやブラジル、日本などの公開企業でTwitterにアカウントのある626社(昨年7月調査は362社)を対象としている。
このうちIR関連の情報を掲載している企業は67%(同65%)である。同様にFacebookでは45%(同37%)だ。YouTubeは34%(同29%)。どちらも前年から微増の数字だった。
ところが、パワーポイント投稿サイトのSlideShareは、昨年10%から44%と、前年比で4.5倍増だ。決算資料などのパワーポイントの投稿は、一気にYouTubeを追い抜いたのだ。
IRブログも19%(同10%)と倍増した。Twitter、Facebook、YouTube、SlideShare、ブログをワンセットにしたソーシャルメディアのIRが当たり前となる勢いなのだ。
もう1つの調査は「アナリスト/投資家調査:ソーシャルデジタルメディアの利用」である。2010年7〜8月にブランズウィックが行った。ここでいうデジタルメディアとはソーシャルメディアの意味である。
回答した401人のアナリストや投資家によると、投資推奨や投資判断に最も影響する企業情報の入手ソースは、1)企業から直接(52%、09年44%)、2)金融情報端末(19%、同18%)、3)市場リポート(15%、同19%)の順で、企業が直接もたらす情報が断トツだった。
企業の直接情報の中では、1)経営者との直接的なやり取り(50%)、2)規制当局への届出(19%)、3)プレスリリース(15%)が続き、投資家向けプレゼン(7%)や電話会議(7%)、また企業ウェブサイト(2%)や企業のデジタルメディア(1%)はわずかな数字にとどまった。
そのデジタルメディアの中で、彼らが最も読むのはブログ(47%、同43%)である。続いてメッセージボード(27%、同30%)、SNS(17%、同13%)。Twitterは11%にとどまった。
自分達がもっと調べたいという気持ちになるのはブログ(52%、同47%)で、次がメッセージボード(31%、39%)。Twitterは11%だった。ソーシャルメディアの情報で市場に影響が及びかねないのだ。
また401人のうち60%(同58%)が、今後はデジタルメディアが投資判断に占める重要性は増大すると回答している。これは見逃してはならないだろう。IR情報の受け手のアナリスト/投資家のうち5人に3人がポジティブな見通しを抱いていることになる。ソーシャルメディアの影響力はまずます勢いをつけるというのだ。
このワークショップのパネラーとして、ソーシャルメディアを利用したIR活動を詳細に語ったパソコン大手デルのウィリアムズ氏が用意した「ソーシャルメディアのIR利用:その6つのポイント」には「ソーシャルメディアを情報発信の手段としてばかりでなく、投資家の声に耳を傾ける方法でもあるととらえることが重要である」と書き込まれていた。
ソーシャルメディアのIR活用で最先端を行くデルの積年の経験を示す一文である。
◇ライタープロフィール
米山徹幸(よねやま てつゆき)
埼玉学園大学経営学部教授。全米IR協会(NIRI)会員。埼玉大学大学院客員教授。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)。最近の寄稿に「~CFO、CEO、IR担当者の3人が中心~ 米企業の98%が開催する決算説明のコンファレンス・コー
ル」(「広報会議」11年7月)。講演に「英国IR協会の『IRベスト・プラクティス・ガイドライン』について」(大阪証券取引所6月3日)など。
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