オンライン・アニュアルリポート5つのトレンド

米山徹幸(IRウォッチャー・埼玉学園大学教授)2012年02月27日 12時24分

 かつて、アニュアルリポート(AR)といえば、プリント版ばかりだった。ウェブサイトに掲載されるときも、そのPDF版でよかった。せいぜい分冊にし、それぞれタイトルと容量を横に書き添える。それで十分だった。それが、この頃は違うのだ。

 というのも、2010年から、米証券取引委員会(SEC)に決算報告を届け出る企業はすべて自社のウェブサイトに株主向けの議決権行使文書を掲載することになったからだ。希望すれば、株主にはプリント版が届く。ウェブサイトの掲載文書には株主向けのARも含まれる。

 この結果、ウェブサイトに掲載される各社のARでは、他からひとつ抜けでて、ステークホルダーの気持ちをより強くつかもうとする動きが出てきた。それが本格的なオンライン・アニュアルリポート(OAR)の作成である。

 米ニューヨーク証券取引所の株式指数ダウ工業株30種に採用されている30社による2010年版をみると、19社がOARを作成し、前年の5割増だった。新しい年が始まり、多くの米企業で株主向けのARを作成する季節がやってきた。どんなOARに仕上げればよいのか――。

 IR関係者の関心が高まる中、さきごろ、コーポレートコミュニケーション・コンサルタント、ニーナ・アイズマン氏が米国の代表企業を網羅するフォーチュン500社のウェブサイトを対象に、「2011年オンライン・アニュアルリポート(OAR)」を発表し、その中で、OARのトレンドとして次の5つを取り上げた。

 第1は「マイクロサイト」。OARはそれ自身がウェブサイトのコンテンツの1つとなったというのだ。ビデオやアニメーションを使い、インタラクティブな仕組みで、OARサイトが充実していれば、企業文化をいっそう強調する効果がある。

 第2は「モバイルとの互換性」。スマートフォンやiPadのようなスマートデバイスの登場で、こうした機器の利用者がOARサイトにアクセスする機会は格段に高まった。これまで自社のウェブサイトにとどまっていたOARがオープンになり、その結果、仕事に限らず、暮らしのいろんな場面でOARが登場することになるだろう。

 第3は「ビデオ動画」。これはOARにパーソナリティをもたらす、とアイズマン氏は指摘する。経営幹部の様子や話しぶりがわかり、アクセスした人たちの気持ちを掴む。企業の事務所や工場にバーチャル訪問して、働いている社員や自社商品を利用するお客さんの様子も知ることもできるのだ。「ビデオ動画」はサイトで伝えたいことをさらに記憶に残す効果がある。

 第4は「ソーシャルメディア」。その効用はマーケティングや社員のリクルートにとどまらない。OARにも効果は大きい。フェイスブックやリンクトイン、ツイッター、ユーチューブなどのソーシャルメディア・サイトとリンクして、もっと多くのアクセスする人たちを獲得でき、フォロワーの関心を引き寄せることにもつながる。ニュース性にあふれ同時間的なソーシャルメディアは、ちょっとした情報の掲載やビデオ動画やウェブサイトの別のURLとリンクして、OARへの関心に大きな刺激剤となる。

 第5は「社会的責任」。これは年々、株主の関心が高まっているテーマだ。自社の社会・環境・経済分野でのパフォーマンスを網羅する持続的な「トリプル・ボトム・ライン」などを取り上げ、チャートやビデオ動画を使って、社外の文献などで自社のコミットメントやパフォーマンスを扱ったコンテンツが注目をひ く。

 OARのコンテンツは多彩で、プリント版やPDF版とは大違いだ。しかし、とアイズマン氏が語る。ARが目的とする「企業メッセージ」という点からみると、その成否を分けるのは、周到に準備されたIRプログラムがあるかどうか、だ。

 株主によく分かってもらい、記憶に残る「企業メッセージ」を発信するARの作成は、OARの枠を超えて、IR全体の取り組みの本気度が問われているというのである。

 振り返ってみて、思い当る日本企業のIR関係者も少なくないだろう。

◇ライタープロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
埼玉学園大学経営学部教授。全米IR協会(NIRI)会員。埼玉大学大学院客員教授。近著に「21世紀の企業情報開示~欧米市場におけるIR活動の展開と課題~」(社会評論社)。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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