「IPOは適切なタイミングまで数年待つ」--Evernoteの事業戦略とは

 Evernoteは5月17日、米Evernote CorporationのCEO、フィル・リービン氏が来日し「エバーノート事業戦略記者説明会」を開催した。


フィル・リービン氏

 Evernoteはクラウド型のデータ連携サービス。現在ではEvernoteとファミリーサービスを含め、全世界で3000万人以上のユーザーを抱えるまでに成長。1日あたりの新規ユーザーの登録は6万~7万と好調だという。

  • 全世界で3000万人以上のユーザーを抱える

 フィル氏はユーザー数について、「100%自然成長。ユーザー獲得のために特別なお金を払うことはない。口コミで広がったユーザー数の増加」と自信を見せる。

 「われわれはそれほど市場調査をすることもない。小さな成功を収められた秘訣は、まず自分たちで使ってみたい、やってみたいことを開発することを考えてきたからだ」と語った。

 Evernoteが目標としているのは「すべてを記憶し、信頼される第2の脳になっていくこと」と言う。

  • 「Evernote 4.0 for Android」

 Evernoteのアプリケーションは、PC向けにWindows版やMac版をはじめ、iOSやAndroid、Windows Phone、BlackBerryといったモバイル版も用意。これらすべてのプラットフォームで写真やメモなどを共有できるのが特長だ。「いつでも使っていただけるようにするため、将来的に出てくるすべてのデバイスに対応していかなければならないと考えている」としており、今後も対応端末を広げていく考えを示した。

 なお、Android版は新たに「Evernote 4.0 for Android」をリリース。アプリの画面のデザインを一新し、速度も向上したという。

今後100年続く企業を目指す--Evernoteの成長戦略

 Evernoteは、最近では2011年7月に5000万ドルを調達。5月にはさらに追加で7000万ドルを調達しており、Evernoteの評価額は10億ドルとなった。

 これについて「資金が底をついたということではなく、ほとんどがまだ手元に残っている。今回の目的は、100年企業に耐えうる企業のインフラをつくるため」と説明する。

 Evernoteの新規株式公開(IPO)については、まずは2013年末をめどにIPOができる状態“IPO ready”にすると説明する。しかし、それは2013年にIPOするということではないという。

  • これまでのM&A戦略

 「実際のIPOは適切なタイミングまで数年待つ。今は今後のために備えて開発に専念し、リスクを負って開発する時期」と説明する。「スタートアップのころは複数のリスクをとることはできなかったし、株式公開後に失敗をすれば市場から罰を受けることになる。大きくなり過ぎてもリスクを追っていくことは難しい。多くのリソースを投資につぎ込み、開発や企業買収などの実験をしていくには、今がベストな時期ということになる。結果、最善のビジネスモデルを見極めた後、IPOをしていく」と語った。

 Evernoteでは、2011年8月にSkitchを買収。2012年5月には、iPad向けの手書きアプリ「Penultimate」を買収した。「ベストなチームをつくるため、100年続く企業になるために同じビジョンを分かち合えるところと組んでいく」とし、今後も買収を積極的に進めていく考えを示した。

楽天の三木谷氏は「もっとも影響を与えてくれた人」

  • Evernoteに出資した投資家

 今回、Evernoteに出資した投資家は、シリコンバレーのベンチャーキャピタル「Meritch Capital」や中国の「CBC Capital」など7つの名前が並ぶ。日本の企業としてはNTTドコモが名を連ねる。これまで、2009年~2010年にかけて、ドコモキャピタルが出資していたほか、NTTドコモとEvernoteは提携していたが、NTTドコモの出資は初。「比率は開示はできない。投資家のほうの判断になる」とコメントした。

  • 「ビデオノート」を、世界に先駆けてNTTドコモに提供

 NTTドコモは同社のユーザー向けに、有料のEvernoteプレミアム版を1年間無料で提供している。世界に先駆け、動画をノートとして保存できる機能「ビデオノート」を5月16日から提供する。

 なぜドコモユーザーにしぼったのか。「高品質なネットワークが必要になるため、実機の検証も必要になる。深い関係をもとに、ほかの市場に先駆けてテストができた。しかし、今後は数カ月の間にほかのキャリア事業者、有償版のユーザーにも使っていただけるものにしていく予定」としている。

  • 「CEO Club」の1人として、楽天の三木谷浩史氏が名を連ねる

 また、NTTドコモのほか、「CEO Club」の1人として、楽天の三木谷浩史氏が唯一の日本人として名を連ねる。CEO ClubはSalesforce.comのCEO、Marc Benioff氏やYahooのJerry Yang氏など6人の起業家で構成され、7000万ドルのうち10%を出資。メンバーは、「1から作り上げて、数十億ドル規模、株式公開まで育てた方々。CEOとして考えをまとめていく上でも助けていただいている」と説明する。

 また三木谷氏について、「チームを拡大するときや国際的なものにする際に、どのようにしたらよいか導き出す手伝いをしてくれた方。日本に関してだけではなく、国際展開についてもいろいろな考え方をご指導いただいた。CEOとしてのモノの考え方など、もっとも影響を与えてくれた人。参加いただけたことを誇りに思う」と語った。

中国の急成長--中国向けのEvernoteサービスも

  • ユーザー比率

 Evernoteの上位ユーザーは、米国が31%、欧州が20%で、日本は18%、中国が5%という。国単位で考えると、ユーザーの合計数、アクティブユーザー数ともに日本は2番目だという。一方で中国が急増しており「今年、来年には、中国のユーザーが日本を上回るかもしれない」と見る。

 一方で、日本はアクティブユーザー数、開発者数、パートナーの数、無償から有償への切り替えも最も多いとしており、「日本をロールモデルとして、他の国でも進めていきたい」と語った。

  • 中国では専用サービスをスタート

 なお、中国では5月にEvernoteサービス「印象筆記」をスタート。サーバを中国に設置した独立サービスで、「最善の信頼性とパフォーマンスを提供できる」としている。

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