企業マーケティングの肝は「3S」の時代に--ブルーカレント本田氏の指針

別井貴志 (編集部)2011年06月13日 13時08分

 3.11の震災以来、企業の商品企画やマーケティングの担当者はどのように自社の商品やサービスを訴求していけばいいのか、悩んでいる向きが多いのではないだろうか。景況の先行きが不透明なことに加えて、どのように消費行動が変化するのか、なかなかつかみ切れていないため、戦略もなかなか描けないという話も聞く。

 こうした中で、「戦略PR」を掲げてさまざまな商品やサービスのマーケティング戦略などについて、コンサルティングやアドバイスを実践してきたブルーカレント・ジャパンの代表取締役社長である本田哲也氏は「3S」という考えを提唱している。今後の企業戦略には欠かせないというこの3Sについて、本田氏に聞いた。

--まず、戦略PRについて教えてください。

簡単に言えば、商品やサービスそのものにフォーカスしたPR活動ではなく、世の中の時流と商品をつなぐテーマをまず開発し、そこから話題を喚起して世論をつくり出す「空気づくり」を行い、その盛り上がりを商品の販売に落とし込む手法です。よくPRとはパブリシティでしょ、つまり露出する活動でしょ、と言われるが、話題そのものを世の中に仕掛けていって、その中で特定の商品やサービスが注目されたり、売れたりするような状況を作っていくという、戦略的には非常に長い時間を要する手法です。パブリシティという概念ではまったくありません。

--何か具体例はありますか。

お手本的な事例としてP&Gパンパースのおむつの例があります。事前に調査した結果、欧米に比べて日本の赤ちゃんは「夜寝る時間が遅い」という事実がわかりました。そこで、「赤ちゃんの睡眠」というテーマを打ち出したのです。当然、これはお母さんの関心事でもあります。この調査した情報をメディアに取り上げてもらったり、インフルエンサーとして小児科医さんが話題にしたりしていくと、どんどん「赤ちゃんの睡眠が重要だ」という空気が出てきますが、ここではまだ「おむつ」を大々的にアピールしていません。

 少し時間をおいて、テーマの空気感が十分出てきたなと思ったら、ここで初めてプロモーションします。最低限の予算でテレビコマーシャルを流しました。「Good Sleep」をキーワードに、P&Gのパンパースがあなたの赤ちゃんの睡眠をケアしているブランドだということを打ち出したのです。お母さん方の関心が非常に高まった、つまり赤ちゃんの睡眠が重要だという空気ができているところにおむつの宣伝プロモーションがのったので売上も伸びて成功したのです。

--商品やサービスが訴求できる空気感を事実に基づいてテーマとして演出するわけですね。

「戦略PRは3Cから3Sへ」と唱えるブルーカレント・ジャパンの代表取締役社長である本田哲也氏 「戦略PRは3Cから3Sへ」と唱えるブルーカレント・ジャパンの代表取締役社長である本田哲也氏

ソーシャルメディアをはじめとして、ネットのマーケティングもますます大事になっていくと思いますが、そうした手法を単純に活用しても駄目です。まして、商品やサービスだけを語る時代は過ぎ去ろうとしています。情報がどんどん溢れているので、いかにいい商品を作っても情報の渦に飲まれてしまうとターゲットの消費者などに届きません。テーマが世の中に浸透していけば、ネットでもリアルでもどんどん口コミで伸びるし、情報が自走していくのです。大切なのは情報だけが走っても仕方がないので、最終的にはサービスや商品につながるような戦略や設計をすることです。

--戦略的PRを展開する上でのポイントは?

 簡単にまとめると、戦略的PRを成立させる要素として(1)おおやけ、(2)ばったり、(3)おすみつき、の大きく3点があります。「おおやけ」というのは公共性の要素ですが、商品ばかりをアピールするのではなく、多少社会性や公共性を付与してあげるのです。「ばったり」は、ネットの情報では重要で、偶然性ともいえます。つまり、「これは商品を売るために狙ってきたな」という情報には多くの人が抵抗感を持っているし、そうした情報を見抜きます。

 人は「1日に3回偶然出会う情報は確実に自分のものになる」といいます。例えば、朝テレビで見て、昼に同僚とランチに出かけたときに話題になり、夜家に帰って家族との話題でもその話がでれば確実にその情報を認識するのです。そういう情報との出会いを演出する偶然性が大事。最後に「おすみつき」は、インフルエンサーという人たちやマスメディアを巻き込んで、本物志向や自分だけのスタイルを満足させる信頼性をいいます。

 この3点に加えて、人を動かすために「しみじみ」という要素もあります。おおやけ、ばったり、おすみつきは設計の話ですが、それに加えて情報に感情移入できるかとか、Facebookの「いいね」ボタンのような共感性だとかがこれにあたります。震災後、情緒的な感情移入というのは震災前よりも高まっている気がします。おおやけ、ばったり、おすみつきに加えて、しみじみ感を打ち出すコンテンツや情報に留意するというのが重要になってきているのだと考えています。

--では、震災後の状況をどのように捉えていますか。

消費者のマインドが完全に変わってきていて、震災前の状況にはもう戻らないでしょう。そういうのを捕まえたPRを展開していかなければなりませんが、企業は非常に悩ましく感じていると思います。

 今後マーケティングコミュニケーションをしていく上で、私なりに思うキーワードを挙げます。日本のいざなぎ景気(1960年代)の時は「3C」、いわゆる三種の神器というのがありました。Cooler(クーラー)、Color TV(カラーテレビ)、Car(自家用車)です。戦後の復興を牽引したし、消費者の消費の質が変化したし、それをすごく象徴した3つの商品だったと思います。よく今回の震災後というのを戦後にたとえる人もいますが、そのぐらい大きな出来事でいろいろなダメージも甚大ですが、消費者の気持ちや価値観ががらっと変わってしまったという意味では、確かに重なる部分があると思います。

 果たして消費も冷え込んで、今後どうしていくかというときに、三種の神器のようなものが出てくるかどうかはわかりませんが、変化した消費行動を知ることが重要になってくるでしょう。

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