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Siri誕生の逸話--開花した“強い人工知能”競争の行方 - (page 2)

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人工知能における「Android対iPhone」

 AndroidとiPhoneの戦いは激化するばかりだ。Steve Jobs氏はこれについて、「『オープン』対『クローズド』ではなく、『分断』対『統合』だ」という言葉を残している。実は、人工知能の分野だけを見ても、まったく同じような戦いが起きている。

 Siriがここまで注目を浴びたのは、会話の応答がインテリジェントであることはもちろんだが、それに付け加えてインターフェースが音声であることが重要なポイントだろう。Siriの音声認識精度は驚くべきものだ。これは、Nuance Communicationsの技術だとされる。ひと昔前の音声認識技術は、個々人に応じて教育する必要があった。たとえば筆者の音声をある程度正確に認識できるようになったとしても、筆者以外の音声は正しく認識できない。これに対し、Nuance Communicationsのシステムは誰が話した音声でも、高精度で認識する。

 その点でAndroidとiPhoneの優劣はどうなるだろう? Siriの音声認識はサーバサイドの処理が大きいことが判明している。音声合成も同様だ。しかしそれはSiri以外では使えない。サードパーティーの開発者がその音声認識、合成を手軽には利用できないのだ。

 対してAndroidはOSレベルで多国語の音声認識をサポートする。音声合成もエンジンさえあればどんな言語でも利用できる。サードパーティの開発者は、音声認識も合成も意識する必要がない。これによりIrisのようなソフトウェアの開発は飛躍的に容易になる。もしAndroidがそういった構成になっていなければ、Irisは登場しなかったかもしれない。

  • IKEAのサイトナビゲーターボット「Anna」。スクリーンショットは日本語版のもの

ビジネスとしての人工知能

 とにもかくにも、Siriの登場により人工知能は脚光を浴びている。それは海外も国内も同様だ。しかし、Twitterなどでボットを見かけたことのあるユーザーなら分かるだろうが、インテリジェントなボットの開発は容易ではない。Twitter上に無数に存在するボットは、単純なキーワードマッチにより定型句を返すものがほとんどだ。人工知能研究の世界ではそういった人工知能を“弱いAI”と呼ぶ。これに対し、文脈判断をしたり推論を行うような高度なものを“強いAI”と呼ぶ。両者には明確な線引きがあるわけではなく、感覚によるところも多い。だが、Siri以降の商用人工知能は“より強いAI”になっていくことは確実だ。

  • NTT西日本のサイトナビゲーターボット「西野ひかり」

 では今現在、実際に商用利用されている“強いAI”はどんなものがあるだろうか。とてもいい事例がある。IKEAのウェブサイトである。スウェーデン語版のIKEAのサイトに「Anna」というサイトナビゲーターボットが2005年に登場した。開発元はスウェーデンに本社を置くArtificial Solutionsだ。彼らの発表によれば、開発費が当時の価格で約50万ドル、年間20%増加し続けていた問い合わせが、導入後には7%増加に抑えられたとのことだ。現在Artificial Solutionsは、日本を含む11カ国にオフィスを持ち、この分野では寡占状態にあると言える。

日本の人工知能マーケット

 国内ではどうなっているだろうか。今では日本のIKEAにもAnnaがいる。しかし、海外ほどの効果があるかは疑わしい。円高の現在でさえ、50万ドルは邦貨換算で4000万円近くになる。もちろん現在も当時と同じ価格とは限らないが、数千万円のオーダーであることは間違いなさそうだ。

  • 富士ゼロックスシステムサービスのデモサイト

 お国柄も重要だ。日本人は単純な仕組みのボットでさえ愛情を持って接する傾向がある。聞きたいことだけを入力し、満足できる返答があればそれで終わり、とはいかない。Annaは、IKEAに関する事柄以外を入力した場合、あらためてIKEAに関する内容を入力するよう求めてくる。彼女は非常に有能なセールスマンであり、コールセンターのオペレーターだが、どんな質問にも答えてくれるコンシェルジュとはいかないようだ。ちなみに同じシステムがNTT西日本のフレッツ光公式サイトにも導入されている。

 国内企業で人工知能を扱っている企業は、ピートゥピーエーアット・イー・デザインなどがあるが、数は少ない。市場が開拓されていないことに加えて、破綻のない会話を成立させるハードルが非常に高いためである。だが利用用途は広がっている。11月1日~2日に開催された「地方自治情報化推進フェア2011」では、富士ゼロックスシステムサービスが人工知能を使った架空の自治体サイト「F町ホームページ」のデモを行っていた。自治体サイトに人工知能を設置することによってナビゲーション効率を高めることができ、自治体キャラクターを生かせると来場者の注目を集めていた。

 Siriが開けてしまった強いAIの世界は、応用範囲がとても広い。PCやスマートフォン、フィーチャーフォンからゲーム機まで、プラットフォームを選ばない。今後、あらゆる企業で試行錯誤が始まるのを目にするだろう。競争はもう始まっている。

【著者】工藤友資

自然言語処理研究者

1976年11月20日生まれ、東京都出身。ライターも兼業。人工知能の開発をライフワークとする。国産初のRSSアグリゲーター「RabbitTicker」を企画開発。「BlogPet」を企画開発。2004年、「BlogPet」にて「Internet magazine」のウェブサービスアワード ブログ関連サービス部門で最優秀賞を受賞。自然言語処理エンジン「JackalopeEngine」*特許第4677051号「会話システム及び会話文章処理方法」等の特許を取得。問い合わせはbingalab@gmail.comまで。

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