テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」が11月11日~13日に渡って福岡で開催された。中国語で「スター」を意味する「明星」の名の通り、スタートアッププレゼンテーション、パネルセッション、会場内でのアートインスタレーション、ダンス、DJパフォーマンスなど、50人を超える識者やパフォーマーがステージに上り、1250人の参加者が思い思いにこの場を楽しんだ。
イベントはDJパフォーマンスやネットワーキングを中心とした「MYOJO」パートと、スタートアップやパフォーマーによるスピーチやセッションを中心とした「WARAKU」で構成された。多くの次世代テクノロジースタートアップを輩出した米テキサス・オースチンのイベント「South by Southwest(SXSW)」をイメージし、福岡を中心にアジアから次世代のスターを生み出そうという新しい試みだ。
本レポートでは主にWARAKUセッションからいくつかのトピックスをご紹介したい。
アジアへの意識を強く持っているのが明星和楽の特徴だ。シンガポールのブログメディア「Penn Olson」編集長のWillis Wee氏、上海を拠点に活動する「TechNode」編集長のGang Lu氏、東京を拠点に活動する「Tech Crunch」ライターのSerkan Toto氏を迎え、孫泰蔵氏を交えたパネルディスカッションが開催された。
2011年のトピックスというテーマでは、日本在住の孫氏とSerkan氏は似た意見を持っていたようで、Facebookが日本で拡大したようにソーシャルの波がやってきたこと、米Y Combinatorのようなインキュベーター、リーンスタートアップの勃興、そしてiPhoneやAndroidなどのスマートフォンなどを話題として挙げた。
また、中国の勢いも気になるところだ。今年のチャイナモバイルが主催したカンファレンスを取材したWillis氏が「2011年のトピックスは中国」と表現したように、Tencentなどの中国企業の躍進、海外進出も話題に上がった。
では今後10年では、アジアにどういうことが起こるのだろうか。孫氏がスマートフォンのCPUやメモリ性能、Wi-Fiなどのネットワーク環境がさらに向上するとして「モバイル革命がさらに進み、そこから新たな起業家、すばらしい企業が生まれるだろう」と予測。Gang Lu氏も同様にテクノロジーの進化で、「アジアにもSteve Jobs」のような人物が生まれるだろうと回答した。
なお、このセッションは通訳なしのすべて英語のみで実施された。孫氏が会場に「英語でしたが大丈夫でした?」と投げかけると多数手が挙がり、運営スタッフがほっと胸を撫で下ろすシーンもあった。
パネルに続いて開催されたスタートアップショーケースでは東京から2組、地元福岡から3組、香港、シンガポールから3組のスタートアップがプレゼンテーションを披露した。こちらもアジア圏からの2組については通訳なしの英語プレゼンテーション。総評に立ったサンブリッジのアレン・マイナー氏も、英語による相互コミュニケーションの重要性を語っていた。
元アナウンサーで、2010年12月に就任した福岡市市長の高島宗一郎氏のスピーチはこの日満員となった聴衆を魅了するものだった。高島氏は「アジアの各都市の経済成長は目覚ましい。しかしそれだけでいいのか」と語り、福岡を人と環境が調和した街にするという目標を掲げた。
高島市長の話によると、福岡市は15歳から29歳までの若い人口が政令指定都市でトップ、大学生の割合では京都についで第2位なのだという。コンテンツ系の専門学校から毎年輩出される人材は約7000人。オフィスなどの賃料も東京に比べて4割ほど安い。しかし福岡に受け皿となる企業が少なく、結果人材の県外流出が多くなってしまっているのだそうだ。
そういった背景から取り組んでいるのがデジタルコンテンツ振興だ。現在福岡にはレベルファイブ、サイバーコネクトツーといった日本を代表するゲーム事業者が拠点を構える。ゲーム関連事業者の集積では政令指定都市で3位になるという。
高島氏はデジタルコンテンツに関する行政、民間、大学の連携を推進し、福岡を「アジアでスタートアップのできる街にしたい。おもしろいことやりましょう」と聴衆に呼びかけた。
時間が進むにつれ、壇上はスピーチから徐々に夜のパフォーマンスに移っていく。ゲームクリエイターであり、元気ロケッツのパフォーマンスでも知られる水口哲也氏は映像の作り方、10月にリリースした「チャイルド オブ エデン」の世界観などを映像に合わせて解説してくれた。
最後は、ニコニコ動画の「踊ってみた」カテゴリで知られるDANCEROIDがパフォーマンスを披露。約1時間に渡るステージには柵が設けられ、イベントの熱気は最高潮に達する。これらのプログラムは明星和楽の公式動画がその雰囲気をよく伝えてくれている。
ここから深夜に至るまで繰り広げられるDJイベント、ネットワーキングパーティーでは普段会うことのない人々が交流を楽しんだ。
イベントを通じて強く感じたのは福岡のテクノロジー系コミュニティのつながりの強さだ。
明星和楽の実行委員会は有志の集まり。東京、福岡のメンバーを中心に活動し、「福岡を本気でアジアのハブにする」という意気込みで、20社以上のスポンサーや100名以上のボランティアを集めた。スーパーバイザーとして参加した孫泰蔵氏は「メンバーを影から支えるお兄さん的存在」(実行委員メンバー)だったそうだ。
「福岡だからこのイベントはできた」--イベント終了後に運営メンバーが口をそろえて語った。ここから日本の文化がアジアを通して世界に広がる日も近いかもしれない。
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