FIT法案は再生可能エネルギー導入の起爆剤となるのか

鈴木章弘 (風力エネルギー研究所)2011年08月29日 14時04分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

太陽光に加え、風力や地熱による発電を促進

 8月26日に再生可能エネルギー買取法案、いわゆるFIT法案が成立しました。太陽光発電の余剰電力を対象としてすでに導入されていた電力の固定価格買取制度ですが、これが大幅に拡充され、風力発電、太陽光発電、バイオマス、中小水力などの再生可能エネルギーによる発電電力の全量を、電力会社が一定の価格で買い取る制度の導入が決まったことになります。

 FIT法案は、菅首相(FIT法成立時)が退陣の条件に掲げた3法案の1つでした。法案は3月11日午前の震災前に閣議決定されもので、福島第一原子力発電所の事故とは無関係に、民主党への政権移行後に検討が進められていました。しかし、東日本大震災の震災復興や原発事故処理、事故後のエネルギー政策についての激しい動きに翻弄され、法案の審議自体が長期間行われないという異常事態となったのです。

 FIT法案はこれらを乗り越えた末、参議院で全会一致で成立しました。これをきっかけとして日本でも他の先進国同様に、風力発電を始めとする再生可能エネルギーの導入が加速することを期待したいところですが、その成否は新制度の整備と運用にかかっています。

法律のよる義務付けから、一部市場機能を活用した制度への移行

 再生可能エネルギーについては、これまでも「RPS制度」と新規設備への「補助金」の組合せによって導入促進が図られてきました。RPS制度の下では、電力会社の発電電力量のうちの一定割合を再生可能エネルギー起源の電力にすることが義務とされていました。制度導入時にも指摘されていたことではありますが、このRPS義務量が1%程度と非常に低く、ほとんどの発電事業者が容易に満足できるレベルでしかなかったため、結果的にRPS制度は再生可能エネルギーの導入を抑制してしまう制度となったのです。

 また、この制度では再生可能エネルギー起源の電力にはRPS価値と呼ばれる取引可能な環境付加価値が付加されることになっています。風力発電事業者などが電力会社に売電する際には、電気エネルギーそのものの価値に加えて、RPS価値を売ることで事業採算を考えるようになっていたのです。しかし、このRPS価値の価格は明確化されておらず、電気事業者との相対で決まる仕組みになっていました。取引量が少なく義務量も少ないという市場環境の中で、RPS価値が低迷する状態に陥っていたのです。

 RPS価値がどの程度の価格であったのかは広く公開されていませんでしたが、風力発電の場合には電気価値と合わせて10円/kWh程度であると言われています。建設費に対する補助金(最大30%程度)を考慮しても、売電単価は最大で14~15円程度ということになります。しかし、これよりも低い水準で取引されたという例もあるようで、火力や水力など他の電源による発電コストと大きな違いがない水準になっているのが実情です。

発電と送電、需要サイドへのバランスのとれた投資が必要

 2012年7月を目処に導入されるFIT制度は、「Feed-In Tariff」と呼ばれる「電力系統への売電単価」を長期間固定し、電力会社に電力の買取義務を負わせることで導入を促進しようとするものです。

 今回成立したFIT法案では、一応の買取義務を電力会社に課しているものの、やむを得ない場合には買取を拒否できることとされています。電力系統は周波数や電圧を規程の範囲内に維持しなければならないため、常に高度な管理が必要です。再生可能エネルギー電源の出力変動は、系統上にある火力発電、水力発電など調整可能な電源によって吸収することが必要で、その量(連系可能量)には物理的な限界があるのは確かです。

 今後は、この連系可能量をどのように増やしていくかが課題の1つになります。ガス火力など調整能力の大きな電源の割合を増やすこと、電力会社間をつなぐ会社間連系線を強化して、地方に設置されることの多い風力発電の電力を調整能力の大きい大都市圏に送ること、既存の揚水発電所を活用することや新たに大型蓄電池を系統上に設置して実質的な調整力を強化することなどが考えられます。

きめ細かな議論により多くのプロジェクト発掘に期待

 再生可能エネルギーの導入促進に大きな役割を果たしてきた補助金制度は、FIT導入を見込んで民主党政権がすでに廃止しています。建設時の補助金は事業資金の「頭金」の役割を果たすため、プロジェクトを組成する上ではメリットがあるものでした。しかし、補助金目当ての事業ではないかという疑いを持たれることがありましたし、事業採算性の検討が十分ではなかったために、破綻してしまう事業が数は少ないものの存在するのも事実です。

 今後は、「頭金」となる補助金がない状態であっても事業資金を準備できる、ある程度の規模を持った事業者が市場の中心になっていくでしょう。同時に、事業性の検証精度を向上させるため、発電量予測などにもさらに高度な技術が導入されていくものと思われます。

 このように、今回の「再生可能エネルギー特措法」によって、再生エネルギーによる発電の「価格」が、広く明らかになります。従来からの再生可能エネルギーへの取り組みが、もっと多くの人々、地域社会や投資家の賛同を得て、「メインストリーム」のビジネスとなることが期待されます。

鈴木章弘

株式会社風力エネルギー研究所 代表取締役

三菱重工業、Windward Engineering LLC(米国)、足利工業大学、日本風力開発を経て、2004年に風力発電専門の技術コンサルティング会社(現職)を設立。博士(Ph.D.)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加