前編は以下の記事。
日本電池メーカーに対する海外のデジャヴ
日本国内の電池会社の優位性が続くのかどうか。海外の論調を見ても、日本製品は国内市場向けに価格が高止まりしているので、結局のところアジアから安価の製品が供給されることで初めて普及し、実用にはそれで十分対応できるのではと思われている節があります。携帯用のリチウムイオン電池のときは、まさにその傾向をたどっています。まず、生産投資額の点で韓国勢に追い抜かれ、その後はシェア1位の座も譲りつつあります。
また、当初日本の関係者が技術的にまったく問題外であると主張していたように記憶しているBYD社のリチウムイオン電池も、現在では事実上かなりのシェアを占めるようになりました。実際、日本関係者が指摘したように事故も多かったようですが、結果的にそれらの経験から学ぶことで改良を加え、シェアという実を取っているのは間違いありません。
ということは、パワー系のリチウムイオン電池でも、やはり日本が先行し徐々にアジア勢にシェアをとられていく方向なのでしょうか。性能は良いものの市場価格より高く、顧客に合わせて無数に仕様開発をしていく日本製はガラパゴスになりやすく、かつ価格優位性も確立しにくい状況です。
実際、EV(電気自動車)を発売した自動車メーカーの話を総合すると「電池価格は下げる」とは言われていますが、「これ以上下がることはない」と言う電池メーカーとは温度差があります。すでに、生産設備に大量の投資をはじめている韓国勢が次々と自動車分野で採用され、気がつくと強力なライバルとして存在しています。中国も巨大な市場を背景に大量の生産体制を整えようとしており、今後シェアの一角を確実に占めていきます。
パワー系は、車載以外にも定置用の電力保存(発電所、変電所、ビル、家庭)の用途がかなり大きいのですが、これに対し、海外勢がリチウムイオン電池で格安のオファーをしているという噂を聞きました。エコ発電による安定電力供給には、蓄電は喫緊の課題ですから、欧米を初めクリーンエネルギー関連プレイヤーの照会が殺到することは容易に想像できます。日本でも先行している電池はありますが、海外では価格が競争の中心となることが予想されるため、現在の状態ではいずれ不利になります。
国内自動車会社による海外電池勢との拮抗
残価の点から日本が価格優位性をつくれる可能性もあります。というのは、電力や自動車などパワー系の二次電池は、これまでのエレクトロニクス製品とは比較にならないほど長期間の耐用年数が要求されます。とすれば、長期間使用できる電池とそうでない電池では、残存価値の差が歴然となります。
そうなった時、携帯用のリチウムイオン電池と同じように海外メーカーも適応できるのかどうか。この点において、日本の主要自動車メーカーの二次電池の二次利用などが評価され、海外勢とのコスト競争でいい勝負になるのではないかと考えています。日本は、幸か不幸か自動車用でまずリチウムイオン電池の本格的な量産が立ち上がりますので、こちらから世界の主導権を握る方向で制度設計するのも面白いのではないかと見ています。
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田中謙司
東京大学大学院工学系研究科 助教
工学博士。東京大学大学院工学系研究科を卒業。マッキンゼーにて電機・金融・通信業界などの経営コンサルティング業務、日本産業パートナーズにて未公開会社への投資および経営支援業務に従事し、06年より東京大学助手、07年より現職。専門は社会システム工学と技術経営。現在は、二次電池社会システム研究会理事を兼務し、参加各社とともに二次電池の普及促進の研究活動を行っている。
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