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存在感を高める二次電池--現状と今後の課題(前編)

田中謙司 (東京大学大学院工学系研究科)2011年07月25日 13時39分
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 最近、自動車用電池や定置・蓄電用などのパワーエレクトロニクス分野ではリチウムイオン電池の存在感が急速に大きくなってきています。電力のピークシフト対応や再生可能エネルギーの大規模導入などです。これらには発電した電気を貯めることで需要との時間差をコントロールする二次電池が重要な役割を占めます。なかでもリチウムイオン電池が注目されているため、本稿ではその現状と今後について議論したいと存じます。

本命エースから一時降板した燃料電池

 電池というと、「あれ、一頃の燃料電池ブームはどこへ行った?そろそろ実用化されてもおかしくないぞ?」と思われている方も多いと思います。実際、燃料電池はエネルギー密度の点からも最終解に近い魅力的な技術でしたが、2008年のときに、水素取扱いの困難さは社会インフラとして当面クリアできないと各社が判断したようです。

 したがって、世の中ぐるっと見回すと、いまだに本気で研究を進めている会社はありますが、各社とも量産の話となると数年内に発売予定のものはありません。現状では、寿命を考えると高価な貴金属を用いないと性能を維持できないとか、水素は、その分子の細かさなどから容器をはじめとする周辺の物質を破壊しやすく、安全保管する技術の見通しがつかないとのことでした。

 これらが解決するのは2020年以降になるのではないかとみられています。固体や液体で管理できれば便利なのでしょうが、水素が液化するのは絶対零度近くになるはずで、その分多くのエネルギーが必要になります。

リチウムイオン電池の急速な発展

 リチウムイオン電池は、モバイルをはじめとする弱電で広く採用された結果、コスト削減と性能向上が劇的に進み、当初想定していた以上にパワー系にも採用できる見通しがつきました。

 周知のとおり高価な二次電池でしたがその性能の良さから、モバイル機器向けに大量生産されたことで価格は劇的に下がり、徐々にその値段は原材料費へ漸近してきました。テクノアソシエーツによると、2015~2020年には鉛蓄電池と同様の価格にまで低下する見通しを持っている企業もあるとのことです。

 このため、当面10年間の環境問題への切り札としてリチウムイオン電池が本命となったわけです。他にもキャパシタやNaS電池など、充放電する技術は次々と開発されていますが、性能面とコスト面、および供給力の面で主力になりそうなのはリチウムイオン電池ということになります。

 2011年現在では、いまだに大型のリチウムイオン電池蓄電システムが存在しないので、リチウムイオン電池を電力のようなパワー系のシステムに使用するイメージが湧かない方も多いかと存じますが、理論的にはまったく問題はなく、また開発をしている企業も複数存在しています。数年前まで電気自動車(EV)に使用する印象すらなかったことを考えると、そこまで不可能なことではありません。

二次電池はエコ産業の必要不可欠なコメ

 もちろんリチウムイオン電池だけのシステムが最終的な解になるとは思えません。どの方式になるかは連続的に変化していくものですが、例えばエネルギー密度などはどこまで技術解決しても、化石燃料と比較すると一桁足りないともいわれています。

 しかし、発電した電気を貯めて需要との時間差をコントロールする二次電池は、電器産業において半導体が人の生活にとってのお米のように欠かせないものであるように、省エネ産業においても重要な役割を占めることは間違いありません。EVの普及とともに、今後注目を集めると思われるのが定置用の利用です。

約2割の発電能力は、需要ピーク時の5%だけ稼働

 深刻な電力の供給不足により、企業や個人による節電の試みが行われている中、例年にない早さで梅雨が明け、計画停電を避けるためにもさらなる節電が求められています。

 ご存じのとおり、現状の系統ではその瞬間に必要な電力を、その瞬間に発電して供給する必要がありますが、一瞬でも逆転が起きてしまうと、電圧が急降下してシステムダウン状態となり、復旧に長い時間を要することとなります。

 実際、米国で2003年の8月に発生した大規模停電では、ある瞬間の電力供給不足が、結果的に経済の中心であるニューヨークをはじめとする5000万人に影響し、電力回復に29時間、インフラ普及に数日、経済的損失は約1兆円という大きな損害を発生させました。

 特に電力系統の最大の問題は、電気が貯められないことにあります。ピーク時対応のため、年間の瞬間最大需要を上回る総発電能力を準備する必要があり、その結果、約2割の発電能力は需要ピーク時の5%だけ稼働している状態にあります(米国の例)。

 昼間がピークとしても、夕方以降は発電能力が余っているのだから、これらの電力を有効活用できないのかという意見も多いですが、現実にはできていません。もちろん揚水発電といった蓄電システムが存在していますが、場所の物理的な制約もあり十分な量を確保することはほぼ困難であるのが現状です。

 これらの分野にも、リチウムイオン電池の活用が現実的なものとなってきました。さらに、今後導入が見込まれる太陽光発電、風力発電も必ずしも欲しいときに発電してくれるわけではないので、電気を貯める二次電池の導入が不可欠といえます。

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