存在感を高める二次電池--現状と今後の課題(前編) - (page 2)

田中謙司 (東京大学大学院工学系研究科)2011年07月25日 13時39分

まずはEVからはじまった二次電池の普及

 2010年から三菱自動車の電気自動車(EV)「i-MiEV」や日産自動車のEV「LEAF」の個人向けの販売が始まりました。近い将来PHEVと呼ばれるプラグインハイブリッドも発売され、二次電池をもつ車が徐々に浸透していくと思われます。今後、価格も魅力的になっていけば、新車のうちの一定割合がEV化すると考えられます。

 さらなる普及のためには、EVの価格をユーザーにとって魅力的なものにする必要があります。実質的な負担価格は、新車と中古売却価格の差額であり、EVの価格の大半を占めているリチウムイオン電池価格の下落スピードが、今後われわれが考えていかなければならない課題です。従来の自動車は、新車購入時から3~5年で資産価値が2~3割減少し、7~10年で価値はほぼゼロになります。しかし、リチウムイオン電池を搭載したEVは、既存の中古車のようなペースで資産価値が下落することはないと考えられます。

 リチウムイオン電池は、充放電の際に構造的な変化を伴わないなど、従来の二次電池とは異なり寿命が長いことが特徴です。ある関係者によれば、1990年代後半にソニーが試作したEV用電池は、10年を経ても電池自体はさほど劣化しておらず、いまだ実用に耐え得るらしいとのこと。

 よってEVの場合は、10年後に車体自体の資産価値がほぼゼロになったとしても、搭載された二次電池に再利用先がある限り価値がゼロになるとは限りません。むしろ、長期間にわたる初期不良テスト済みとして価値の高い電池とも考えられます。二次電池を中心にして考えれば、新車から始まって、中古EV、そして定置用と、その状態ごとに適した活用によってライフサイクルで価値を生み出す仕組みを設計できます。

 この概念に基づいて、2009年から二次電池社会システム研究会ではフォーラムを開催し、2010年からは23社の企業会員と一緒に、二次電池社会の実現へ向けた活動を行ってきました。最近では再利用の考え方がアメリカにも浸透し、DOE(米国エネルギー省)を中心として、これらのグリッドへの活用可能性を積極的に研究しています。民間企業の間でもGMをはじめ、電力会社、送電設備会社などが積極的に検討をしています。

 実際、私も先週MITメディアラボのスマートシティ研究チームへ伺いましたが、彼らも研究の軸足をEVの普及実証実験からEVバッテリーの有効活用へと移しつつあると明確におっしゃっていました。

再利用によって二次電池を最後まで活用する

 今後、二次電池の市場を健全に育て上げていくためには、電池寿命の価値を正しく評価する仕組みが必要となります。ユーザーは電池そのものが欲しいのではなく、充放電によって得られる価値が欲しいので、残存容量と充電可能回数が電池の価値を決定付けるといえます。これは企業価値評価と同様の手法で将来得られる二次電池によるキャッシュフローから算定可能です。

 現在は、残存容量だけで価値が判断されているため、寿命5年の電池と、寿命20年の電池が同じ価値基準で評価されていますが、寿命20年の電池は、5年の電池よりも充電可能回数が多い。そこが製品の価値として評価されることが必要です。

 特に、インフラなどの長期利用を前提としたシステムでは、電池が何年間利用できるのかが費用負担を検討する上で重要となります。これらのプロジェクトに資金を出す際には、資産の中で大きな割合を占める電池価値が将来的に算定ができるかできないのかが、資金調達コストに大きく影響してくるため、寿命が不確定なものは採用されにくくなることが予想されます。

 公正な査定をするためには、電池の使用状況などをモニタリングしたデータが必要となりますが、なかには情報開示を嫌うメーカーも出てくると思われます。しかし、企業価値の査定で、信頼できる情報が多く開示されているほど製品や販売業者の価値が高まるように、リチウムイオン電池でも情報の充実度が製品の価値を左右します。どこまで情報を開示するかはメーカー各社で考え方が分かれるところですが、少なくとも「二次電池の残価を客観的に検証するための『物差し』は必要」と考えています。

 追記:多くのご意見誠にありがとうございました。認識が異なっていたところは真摯に受け止め、訂正するとともに、今後の研究に反映させていただきます。

 Facebookページ「Clean Green Forum@ FB」も展開中。

田中謙司

東京大学大学院工学系研究科 助教

工学博士。東京大学大学院工学系研究科を卒業。マッキンゼーにて電機・金融・通信業界などの経営コンサルティング業務、日本産業パートナーズにて未公開会社への投資および経営支援業務に従事し、06年より東京大学助手、07年より現職。専門は社会システム工学と技術経営。現在は、二次電池社会システム研究会理事を兼務し、参加各社とともに二次電池の普及促進の研究活動を行っている。

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