クラウドに対するAppleのアプローチは、Googleのものとは異なっている。Appleはクールなものごとすべてを空の彼方にあるコンピュータで実行することがクラウドだとは考えていない。同社は、あらゆることをクラウド上で行おうとはしておらず、その必要もないと考えている。むしろクラウドのことを、すべての列車が定刻通りに運行し、正しい目的地に向かっていけるよう責任を持つグランドセントラル駅の輸送指令員と捉えているのだ。
AppleはWWDC 2011で6日に発表したiCloudによって、データの流れを統制するのではなく、組織的に調和させるかたちでクラウドを使用することになる。つまり、同社のクラウドはアプリケーションや楽曲、メディア、文書、メッセージ、写真、バックアップ、設定などの中央リポジトリとして機能することになる。10年前、AppleやMicrosoftは、それぞれMacやPCがさまざまなデバイスと接続、連携できるようにすることで、日々の生活や仕事の情報を管理するデジタルハブが実現されるという構想を前面に押し出していた。しかしAppleは6日、もはやそういう状況にないことを明言した。これからは、iCloudがデジタルハブという役割を担うようになるというわけだ。
「われわれは、PCを単なるデバイスに格下げする」(Steve Jobs氏)
これらのことからAppleは、Googleが歩んでいる道(これは本質的に、旧来のメインフレームが目指した方向と同じである)とは異なる道を選択したと言えるだろう。つまりAppleは、人気の新興企業であるDropboxとよく似たアプローチを採ろうとしているわけだ。これによってユーザーは、自らのコンピュータやモバイル機器に格納されている個人のデータや、購入した楽曲等のメディアファイルを、インターネット上にある個人の中央リポジトリにアップロード(同期)しておくことが可能になる。その後、ユーザが保有しているすべてのデバイスで同期処理を行うことで、すべてのデバイスが同じデータやメディアファイルにアクセスできるようになる。このためユーザーは、さまざまなマシンやデバイス(例えばPCやタブレット、スマートフォンなど)間でデータを最新に保ち続けるために、ファイルや楽曲のライブラリを常に管理しておくというわずらわしさから解放されるわけだ。
Appleのアプローチは、データに対する統制権を奪い去らないうえ、該当データをローカル環境にも保持しておけるという理由により、ギークやハイテク好きの人間、ITプロフェッショナルから支持されることだろう。とは言うものの、同期処理が煩雑となることも考えられる。また、(パフォーマンスや帯域幅といった制約により)デバイスのすべてを自動的に同期させたくないという場合には特に煩雑となる可能性もある。さらに、メインストリームのユーザーやビジネスプロフェッショナルが同期という概念を理解し、活用していけるかどうかも現時点では未知数である。
ただ、インターネットの現状に目を向けた場合、AppleのアプローチはGoogleのアプローチよりも現実的であると言えるだろう。しかし、どこでも超高速ブロードバンドを利用できる世界が5年後、あるいは10年後に実現した場合、同期という考え方はまだ重要なものであり続けているのだろうか。それは、ユーザーがパフォーマンスやセキュリティ、安心感といった理由で自らのデータをローカル環境に保持しておきたいと考えるかどうかによるはずだ。
WWDC 2011以降、ソーシャルメディアにおいてAppleのiCloudに関する熱い論議が交わされ続けている。筆者が目にした最も鋭いコメントは、LessienがTwitterでつぶやいたものである。その内容は「Appleのビジョンでは、クラウドによって従来のアプリケーションがより良いものになる。そして他社のビジョンでは、クラウドが従来のアプリケーションに取って代わるものとなる」というものだ。
ここまでいろいろと述べてきたものの、すべては次の2文で総括することができる(さほど驚くような結論ではないかもしれないが)。Googleにとってはウェブが世界の中心である。Appleにとってはあなたのデバイスが世界の中心である。
両社がともに正しいということもあり得るのだろうか。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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