Appleは少なくとも、このシステムをPCに組み込むことの重要性を、ある程度までは認識しているようだ。この点はMobileMeでは明らかに不足していた。例えばiCloudでは、「iPhone」や「iPad」で撮影した写真を、PCのピクチャフォルダで表示させることができる。MobileMeのPC同期機能と比べれば大きな進歩だ。MobileMeでPCと同期されるのは、連絡先、カレンダ、ウェブブックマークであるため、iOSデバイスを持っているPCユーザーがAppleのMobileMeのエコシステムを受け入れるには、ある種の魅力やセールスポイントが欠けていた。
そこで大きな疑問となるのが、AppleがMacやiOSの開発者に与えている特権をPCソフトウェアメーカーにも広げて、同社の計画通り、必要最小限の導入というところから一歩進むつもりがあるのかということだ。同社は6日、AppleアプリケーションのメーカーがiCloudに接続して、ドキュメントや貴重なデータなどを転送できるよう、APIを提供すると述べた。ほかのプラットフォームの開発者にも同じものを提供すれば、iCloudの勢力範囲は広がるだろう。そこまでいかなくても、APIを提供されれば、開発者はiCloudを使ってデータを流せるように、Appleのプラットフォームで開発を行い、iOS上のアプリケーションをデータ転送のためのパイプにしようと明確に考えるようになる。
このアプローチに問題はあるだろうか。1つの問題は、将来的にApple以外のデバイスを使うことを決めた場合だ。そのデバイスにウェブベースやデスクトップベースの代替サービスがない場合、アプリケーションの中にあるデータは、サードパーティーサービスがなければそのエコシステムを離れられない。Appleには運営する事業があるため、システムに賛同する開発者にAPIを無料で提供しても、他社のための大きなデータ集積所とはならないだろう。
Appleのシステムがダウンした場合や、一時的な障害が起こった場合はどうなるのかという問題もある。これはMobileMeがスタートした際に問題になった点だ。Jobs氏によると、AppleはiCloudをできるだけ強固なものにしようと真剣に取り組んでおり、ノースカロライナ州メイデンに新設されたデータセンターはそのための1つだという。しかしAmazonのクラウドサービスでも分かるように、ダウンタイムは大企業にも起こりうることだ。
1つはっきりしていることがある。iCloudはMobileMeよりもさらに大きくクラウドインフラストラクチャに近づいたようだ。Appleが事実上、見栄えのいいウェブアプリとの競合を避けているが、iCloudは、ハードウェアとソフトウェアの融合というAppleの強みを生かす機能を備えて戻ってきた。AppleはiCloudに支えられて、ポータブルデバイスを買ってすぐに簡単に設定できるようにするだけでなく、複数のデバイスを同時に所有しやすくしようとしている。大作映画の公開日のように、iCloudが公開された時には、こうしたことすべてがどの程度うまくいっているのかを知ることになるだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」