われわれが今日知っているAppleの直営店は、コーヒーとデニッシュを片手に、Macでちょっとウェブサーフィンができる場所として開始されることが決まりかけていた。
米国時間5月19日でAppleが初めて直営店をオープンしてから10周年となった。Appleの小売分野への進出が、技術系専門家からの懐疑的な見方や(事実として)おいしいパンの販売という誤った第一歩を踏み出そうとしていた点をよそに、どれだけの成功を生んできたのかを見直すにはいい時期である。
最初の直営店が実際にオープンする数年前である1996年、Appleは、自社ブランドを消費者の意識と購買意欲に浸透させるために全く違う計画を持っていた。高速インターネット接続とソフトウェアライブラリ、そこに近所の常連とサポートスタッフのいるサイバーカフェが世界中の都市に出現していた。
Appleは、Landmark Entertainment GroupとMega Bytes Internationalと提携し、最新のサイバーカフェをロサンゼルス、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京、オーストラリアのシドニーにオープンする計画を発表した。来店客はウェブサーフィンをし、スナック菓子を食べ、結果として後で買うことになるかもしれないAppleの最新ハードウェアとソフトウェアを使うことができる。Appleで当時マーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めていたSatjiv Chahil氏はこれを「われわれの製品を実世界で披露するための場所」であるという考えを明らかにしていた。
この発表のわずか1カ月後、AppleはNeXTを買収し、まもなくSteve Jobs氏がAppleの最高経営責任者(CEO)として返り咲いた。1997年末、このサイバーカフェの構想は静かに棚上げされた。Appleはこの決定について、このビジネスベンチャーにかかわるパートナー企業によるものだとしていた。
もともと、Appleが自社の小売戦略に踏み込んだ大きな理由の1つに、パートナー企業との関係がある。Appleが直営店をオープンするまでの間、コンピュータの小売業界は、一部の巨大量販店に席巻されていた。現在でも生き残っている企業はほとんどないものの、こうした小売大手は、多くのメーカー製品を並べ、従業員を自ら雇い、製品の流れを支配していた。
当時の主力製品がまだコンピュータだったAppleにとって、この仕組みは上手く機能していなかった。1998年、同社はこうした小売店であるBest Buy、Circuit City、Searsなどから撤退し、小売企業のCompUSAとともに「店舗内店舗」というコンセプトに注力し始めた。そこでは、大量の他社製PCやノートPC、ガジェットから分離された統制のとれた環境のなかで、消費者はApple製品を体験できるようになる。同様の取り組みは今でもFry'sやBest Buyといった場所で見ることができる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」