情報通信関連のベンチャー企業が集まり、ビジネスプランの発表や展示を行う、独立行政法人情報通信研究機構主催のイベント「情報通信ベンチャービジネスプラン発表会」が1月25日、都内で開催された。イベントの冒頭では、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏が登壇し、「IT革命の本質と新リーダーシップ論〜今求められるリーダーとは〜」と題した基調講演を行った。
NTTドコモのiモードやおサイフケータイなど、社会にインパクトを与える新規事業の立ち上げに数多く携わってきたことで知られる夏野氏。IT革命がもたらした大きな変化について、「情報のコモディティ(日用品)化」を挙げる。夏野氏は「昔は新しいサービスを始めようとなると自分で開発しなければならなかったのに対して、今は技術そのものがマーケットで入手可能な時代。ネットで検索すればマーケット調査のための情報がいくらでも手に入るし、昔は時間と人間の労力が必要だったことが今は簡単にできる」と説明した上で、「研究開発を1からやらなくても、人材を引っ張ってくるなり、ライセンスを供与してもらえば、来年にもビジネスが開始できる。Googleもそうやって大きくなった会社だ」と語る
しかし一方で、日本企業にマネジメントの多様性が欠如していることを指摘する。「研究開発は必要だが、その技術を使って何をするかというビジネスモデルの構想力のほうが大切。情報流通スピードが超高速化している中で、いかに早く実現するかが重要な時代だ」と語った。
インターネットやモバイルの普及によって、この10年で社会が大きく変わったように見えるが、IT革命はいまだ進行の過程にあると夏野氏は話す。「経済的効果からいうと、これからの10年のほうが大きな効果を秘めている。なぜなら、十分なくらいにインフラは行き渡っているから。ここで新しいビジネスを起こしたりすると、その普及スピードは異常に速い。あっという間に大きなビジネスになる可能性が極めて大きい時代。まだIT革命による恩恵を受けていない業界、モノ、サービス、組織、制度は何か。それがビジネスチャンスになるはず」と期待を語る。
しかし、さらなる発展と成功のためには、これまでの日本企業のあり方を大きく変えるべきだというのが夏野氏の考えだ。「日本の企業は、情報を精査し、議論を尽くすというのが好きだが、それでは答えは出ない。なぜなら情報過多だから。いい情報も悪い情報も即座にたくさん集まる。精査すればするほど、議論を尽くせば尽くすほど、結論は出にくくなる」(夏野氏)つまり、ある程度の調査と議論を進めた後は、リーダーが組織の方向性を示すことで、ブレのない集団でビジネスを進めるべきだという。
また組織のリーダーについては、「ディテールを理解していないと、方向性が示せない」と説明。リーダーとなるべき人物は、哲学や信念を持ち、組織の社会的ミッションや競争優位が何かを理解し、最終的に何を目指すのかを考えた上で、日々の経営判断を行うべきだとした。
夏野氏は、日本にはまだ活かしきれていない資源が眠っていると、その可能性を語る。「日本は資金が集められない、ベンチャーは大変だとよく言うけれど、日本には、1400兆円もの個人金融資産、世界トップレベルのITインフラ、教育水準、労働意欲の高さ、眠れる技術といった大きなポテンシャルがある。これを生かすだけだ」(夏野氏)
その一方で、日本の弱点について「語学能力の低さや個性軽視、議論軽視、予定調和好き、どこか他人事でも許されるぬるい社会」と指摘。「こうした甘えの部分を少なくともリーダーから排除すれば、日本は伸びる余地がまだまだある。お金ではなく、社会にインパクトを与えることを目標にして頑張ってほしい」と語り、基調講演を締めくくった。
このあと、一般応募から選ばれたITベンチャー7社と、地域のベンチャー支援機関から推薦を受けたITベンチャー5社によるビジネスプランの発表会が開催された。参加企業とビジネスプランは以下の通り。この中からFusicが優秀賞に、コニットが大賞に選ばれた。審査員でNTTインベストメント・パートナーズ マネジングディレクターの森下信司氏は、大賞のコニットについて、「発表者が甲乙つけがたい中、人やアイデア、構想力、パッション、解決力、ターゲットとするマーケットの規模(TAM:Total Access Market)、海外展開への期待から総合的な視点で見て、大きなポテンシャルを持っている」とコメントした。
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