ソニーのウォークマンが、2010年12月の国内携帯オーディオ市場において過半数のシェアを獲得し、アップルのiPodを退け、首位に立った。BCNの調べによると、ソニーのシェアは52.1%。これに対して、アップルのシェアは42.9%だった。
年間で最大規模となる年末商戦において、ソニーが過半数のシェアを獲得したのは初めてのこと。これまではトップシェアを獲得したといっても、新製品への入れ替え期であったり、週間での瞬間風速といった状況だったが、ソニーにとっては、念願の商戦期での月間トップシェア獲得ということになる。
国内市場を担当するソニーマーケティング社長の栗田伸樹氏は、2010年夏に行った事業方針説明のなかで、「年末にはウォークマンで50%のシェア獲得を目指したい」とトップシェア奪取を宣言したものの、前年の2009年12月には30%台のシェアであったことから、業界関係者などの反応は懐疑的なものだった。
だが、低価格モデルを中心に、音質の良さや、日本のユーザーが求める歌詞表示機能といった点が市場から高い評価を受け、アップルのシェアを逆転するに至った。
若年層からの評価が高かったこともそれを後押しした。ソニーの携帯オーディオプレーヤーの平均単価は1万2700円。これに対して、アップルは1万7700円と、ソニーが特に低価格モデルで好調だったことも見えてくる。
BCNの調べによると、アップルが新製品を投入した2010年9月以降、同社は販売台数、販売金額ともに前年割れで推移。12月には、販売台数で15.3%減、販売金額で9.1%減となった。それに対して、ソニーは2010年は年間を通じて前年実績を上回る形で推移し、12月の販売実績は台数で42.7%増、金額で31.6%増と大幅な伸びとなった。
だが、これに対してはいくつかの見方がある。
ひとつは、携帯オーディオプレーヤーとして、iPodと同等の使い方ができるiPhoneの数字をどうカウントするかという点だ。もちろん、ソニーでもソニー・エリクソンの携帯電話をカウントしていないという点では同じ状況にあるが、日本におけるiPhoneの販売台数はその比ではない。この点を考慮しなくてはならないだろう。
もうひとつは、BCNの集計ではアップルストアの販売台数や、同社直販サイトの販売台数がカウントされていないことだ。アップルストアでのiPodの販売台数は、かなりの数が想定される。これもソニーが展開するソニーストアでの販売数量とはかなりの差があると思われる。
そして、今回の数字はあくまでも日本国内だけのシェアということだ。アップルのお膝元である米国市場におけるウォークマンのシェアはわずか1けた台に留まっており、北米市場での巻き返しなしには、国内でのウォークマンの好調を手放しでは喜べない。道のりはまだ遠いといえる。
米国市場における販売を担当する米Sony Electronics社長のPhil Molyneux氏は、「米国は、アップルが極めて強い市場。その市場に対して、ウォークマンならではの音質の良さ、そして今後サービスを予定しているMusic Unlimited Powered by Qriocity(キュリオシティ)を通じた音楽コンテンツの提供などによるバリューチェーンとしての強みを発揮することで、存在感を高めていきたい」とする。
Molyneux氏も、日本での成功事例を分析しはじめている。
「日本では、リテール市場で実際に商品を体感してもらうことで、ウォークマンの良さを知ってもらったことが、成功につながっているのではないか。残念ながら、米国市場では、ウォークマンの音質の良さや操作性を体験していただけるような売り場づくりができていない。つまり、ウォークマンのバリューや性能が、正確に伝わっていなかったという反省がある。全米に44店舗ある直営のソニースタイルストアにおける体験だけでなく、リテールパートナーと協力して、ソニー製品の良さを知ってもらえるようにしたい」(Molyneux氏)
「顧客に体感してもらう」という取り組みは、2010年10月に発売した「Sony Internet TV Powered by Google TV」で既に開始しており、Best Buyなどの主要店頭においては、実際にインターネットをワイヤレス接続し、ライブデモが行えるようにしているという。
Molyneux氏は、具体的なシェア目標を求める筆者の質問には明確に回答しなかったが、「昨年、社長に就任してから最初の6週間で、全米のリテールショップを訪問した。ソニーのブランド、ソニー製品の価値を知ってもらうための正しい活動を行い、売り場を改善しはじめている」と、長期的な視点で、ウォークマンのシェア拡大に乗り出す姿勢をみせた。
日本での成功を維持することも大切だが、それ以上に、今回の日本での成功を欧米に広げることができるかが、今後のウォークマンビジネスの成長を左右することになる。Molyneux氏は、「2013年までに米国で最大のエレクトロニクスメーカーになることを目指す」と宣言した。看板商品であるウォークマンの米国での復権なしには、ナンバーワンはのぞめないはずだ。
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