「短期間でクラウドサービスを提供するという観点からも、富士通は世界のレベルには追いついたと自負している。クラウドを短期間に提供できるのは、もはやセールスフォース・ドットコムだけではない」
富士通執行役員常務、ソフトウェアグループ長である山中明氏はこう切り出した。
政府が実施しているエコポイント制度において、セールスフォースが使用されているのは多くの人が知る事実。そして、これがわずか1カ月という短期間で構築されたことも、同社幹部などの発言から公然となっている。この実績は、セールスフォース・ドットコムならではのクラウドサービス導入事例として、多くの業界関係者やユーザーから注目を集めてきた。
だが、山中氏は、富士通も短期間でのクラウド導入実績があることを強調する。その事例のひとつが、2010年1月18日から稼働した「新型インフルエンザ罹患情報管理サービス」だ。厚生労働省が導入した同サービスは、入院患者や集団感染の状況を迅速に把握し、その対応策を判断するためのもの。全国510の保健所、全国136の対策本部と、厚生労働省、国立感染症研究所を接続して利用される。
富士通によると、このサービスはヒアリングからわずか1週間という短期間でトライアル稼働にこぎつけ、1カ月で本稼働させた。「新規にシステムを開発するのに比べて5分の1の時間で実現した」(山中氏)という。クラウドならではのこのスピード感が、新型インフルエンザの流行期に対応したサービスの運用開始を可能にしたわけだ。
さらに8月からは、宮崎県において口蹄疫で被害を受けた畜産農家の再建支援を行うための「口蹄疫復興支援システム」に富士通のクラウドサービスが採用され、被災農家情報や家畜情報の共有、農家への手当金の支給手続きなどにより、経営再建に向けた支援を行う。山中氏は「これも短期間にサービスを稼働したいという要請に応えたもの」だと胸を張る。
いずれのクラウドサービスも、同社のSaaS型統合CRMソリューション「CRMate(シーアールメイト)」を活用している。富士通ではCRMateについて、地震、風水害、疫病などが発生した際の政府や自治体の緊急対策本部での活用のほか、自主回収、リコールなどの緊急対応が求められた企業の総務部門における情報収集および管理などに最適化したクラウドサービスだと位置づけている。
「地震、風水害、疾病などの緊急時に、効果的な対応策を検討するには、被害状況などの把握が必要となるるが、属人的な情報管理では、情報収集と集計に追われるばかりで、対策が遅れることになる。CRMateにより、効率的で、迅速な情報収集と情報共有を実現でき、しかも最短7営業日での運用開始が可能になる。さらに1利用者あたり月額5500円であり、状況に応じて利用者数を柔軟に変更することが可能。複数の拠点や関連部門にも素早く展開ができる」とする。富士通でも、総務人事部リスク管理推進室でこれを活用しているという。
さらに富士通は、5月から100社程度で試験運用を開始している「オンデマンド仮想システムサービス」を、10月から商用サービスとして開始するという。これも、クラウドサービス事業拡大の切り札のひとつだ。センサを利用して最適な農業を実現する「農業SaaS」や、タクシーの運行状況をもとに渋滞の状況を把握して最適な道を案内する「次世代交通システム」への展開といった具体的な活用事例も視野に入っている。
「2階層、3階層のシステムをアサインできることから、Amazon EC2にはアヘッドできると考えている。世界トップレベルの安心できるプラットフォームとして提供できるものになる」(山中氏)
オンデマンド仮想システムサービスも、実は2009年7月から富士通社内で試験的に運用してきたものだ。「自ら実践して、そこで得たものをフィードバックする泥臭いやり方が富士通の手法。その蓄積したノウハウを、お客様にフィードバックする」という。富士通の4500人の技術者が利用している開発のための仮想化環境である「沼津ソフトウェア開発クラウドセンター」も、この実績をもとに将来的には広く展開していくことになろう。
「2年前には、SaaSを提供できる仕組みが整っていなかった。そこで先行を許したという反省がある。だが、もはやそうした状況にはなく、さらに、メインフレームなどで培ったトラステッドな環境で提供できるという優位性もある」と山中氏は息巻く。2010年4〜7月の3カ月間における富士通のクラウド商談件数は1500件に達したという。これは2009年度1年間での実績に匹敵する規模だ。同社のクラウドビジネスは、あらゆる意味で「コマがそろってきた」と言えそうな状況にある。
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