「セキュリティソフト市場に真っ向から挑んでも勝ち目はない。だが、この市場に横から入ることはできるのではないだろうか」
国内のセキュリティソフト市場に新たなプレーヤーが参入した。米PC Pitstopが開発したPCチューニングソフト「PC Matic」がそれである。冒頭のコメントは、日本におけるPC Maticの総販売元となるブルースターの社長、坂本光正氏のもの。「横から入る」という表現には、「PCチューニングソフト」という本来の製品カテゴリに区分けされる製品でありながらも、そこにセキュリティ機能を搭載することで、間接的にセキュリティ市場に参入するという狙いが含まれている。
PC Maticは、ドライバの自動更新や一時ファイルの削除、レジストリの削除、メモリの最適化、デフラグといった機能を搭載した製品。ワンタッチでアプリケーション起動の高速化、ネットアクセスの高速化といったPCのチューニングを行うのが基本機能となる。そして最大の特徴は、フリーミアムモデルを採用し、PCの診断そのものは無料で行える点だ。チューニングをソフトウェアで自動的に行う部分は有料で提供する。
「自分でチューニングができるのであれば、診断だけを無料で使ってもらえばいい。また、診断をした結果、チューニングが必要なければ、なにも手を入れずにPCを利用してもらえばいい。しかし、起動やシャットダウンを早くしたい、ネットアクセスを快適にしたいと思うものの、チューニングの知識を持たないユーザー、知識はあるがワンタッチで解決したいというパワーユーザーには、PC Maticを有料で使ってもらうという選択肢を提供する」(坂本氏)というのが戦略だ。
そのPC Maticが、この8月から新たにパッケージ版を用意して日本に本格上陸した。それに合わせて、開発元である米PC Pitstopが用意したのが、新搭載となるセキュリティ機能だ。OEM調達したリアルタイム検知エンジンをPC Maticに搭載。検知したスパイウェアやウイルス、アドウェアなどを削除できるという。
坂本氏は、「もし、現在使用しているセキュリティソフトの使用期限が切れても、引き続きPC Maticを使ってもらうという提案ができる。これによって、既存セキュリティソフトの更新阻止といった効果もある」と目論む。
セキュリティ機能の高さという観点でみれば、セキュリティ専業メーカーの製品に一日の長があるだろう。だが、最低限のセキュリティ対策を行うという点からみれば、PC Maticを利用するというのもひとつの選択肢となる。
「動作が重くなったPCを快適に動かすことができるとともに、セキュリティ対策も同時に可能になる。しかも、それが1カ月80円という費用で実現できる」(坂本氏)
PC Maticのライセンス価格は年間4980円からで、1つのライセンスで5台までのPCで利用できる。自分が所有している複数のPC、家族や友人が所有しているPCでも利用が可能だ。先行している欧米での販売形態も同様となっており、その仕組みが発売から約1年で200万本という累計出荷と、この分野でのナンバーワンシェアという実績につながっているという。
「自分が所有するPC以外にも、家族のPCや、友人のPCにも使ってもらえる仕組みは珍しい。PCチューニングソフトの利用者は複数台のPCを所有していたり、友人から相談される場合も多く、そうした用途にも利用することを想定したもの。当然、マーケティングの観点から、多くの人に短期間に認知度を高めることを狙った提案のひとつともいえる」(坂本氏)という。診断機能の無料提供と、ユーザーの口コミという手法での広がりを想定しているというわけだ。また同時に、日本ではUSBメモリや他社のソフトウェアにPC Maticをバンドルし、無料および有料で利用してもらうという仕掛けも行っていく考えといい、これも浸透を図るための提案のひとつといえる。
BCNの調べによると、セキュリティソフトウェアの市場規模は、PCユーティリティソフトの市場の17.8倍(2010年7月実績)にも達する。ユーティリティソフトであるPC Maticの販売数量を拡大しようとするならば、「PCチューニングソフト+セキュリティソフト」という打ち出し方は、理にかなったものだ。
だが、セキュリティソフト市場は、現在トレンドマイクロが49.5%と約半分のシェアを獲得し、2位であるシマンテックが24.1%、3位のソースネクストが12.4%を持っている。上位3社の合計で、実に86.0%を占める寡占市場なのだ(2010年7月の販売本数実績、BCN調べ)。4位のキヤノンITソリューションズ、5位のマカフィーを加えると93.4%となる。これだけの寡占市場に新規参入しようとすれば、坂本氏が「横入り」とも表現するゲリラ的な戦法が必要になるということだろう。
小さな市場のトップメーカーが、寡占化した大きな市場において、横入り戦法でどこまで成果をあげることができるのか。市場を掻き回す存在になれるのかどうかに注目したい。
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