成熟期迎える米国市場から考える、国内ソーシャルアプリ開発者の3つの戦略 - (page 3)

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リーダー戦略:Zynga

 現状で多少なりとも他社に先行しているSAPは、Zyngaのリーダー戦略が最も良い見本になるだろう。Zyngaの戦略についてはすでに紹介したため、ここでは詳細を省くが、リーダー戦略で重要になるのは「規模をテコにした更なる規模の拡大」と言える。Zyngaは事業の利益や資金調達で得た潤沢な資金力を生かして、“体力勝負”の戦いをしている。60億円以上の大規模な広告費や度重なる買収で、ユーザーベース、ゲーム開発キャパシティ、収益力を拡大している。またCafe Worldの事例で見てられるように、競合ヒットゲームの類似ゲームを開発することで確度高くヒットを出し、同時に競合を潰しにかかっている。

 現在の日本市場はまだまだ戦いの火蓋が切って落とされたばかりで圧倒的なリーダーは存在しない。現状での主要SAPにとって、いかにZyngaのような好循環にいち早く入るかが鍵だろう。リーダーとなりえるSAPが一度良い循環に入ると、その牙城を突き崩すのは難しく、その他のプレーヤーは差別化を図りながらある領域で一点突破を図るか、戦いを避けてすみ分けする中でチャンスを伺うしかなくなる。

差別化戦略:CrowdStar

 差別化戦略は、リーダーが大きな存在感を誇っているメインの市場で戦う中、独自の価値を築きリーダーに対抗する、いわば後発組が勝ち組に食い込むための戦略だ。日本でもこれから主要SAPの一角に食い込もうというプレーヤーにとっては有効だ。米国CrowdStarは今でこそFacebookで4位に位置するが、初めてランキングに登場したのは2009年11月とかなりの後発だ。Zyngaをはじめとした上位3社が勝ち組の座を着々と固めていく中、卓越したゲームの開発力や運営力、低コストオペレーション力、そしてなによりゲームのユニークさで差別化をしていった。

 大ヒットを記録したゲーム「Happy Aquarium」は実はCrowdStarの4本目のアプリとなる。1本目は戦争シミュレーションの「World War2」で、課金や運営のノウハウを学んだものの、規模は拡大しなかった。次にクイズゲームの「Know-It-All Trivia」をリリースし、ソーシャルグラフを活用し、口コミでユーザーを広げるノウハウを学ぶが、これも収益化しなかった。そして、3本目の「Save the Reef」ではバイラルが効き、課金もできるというソーシャルアプリの王道を狙ったが、泣かず飛ばずの結果となったが、ようやく4本目のHappy Aquariumで規模化と収益化の双方を実現した。

 同社の戦略から学ぶべきは、ヒットが出るまで着実かつ徹底的にバイラルや課金、運営、バックエンドの技術といった競争上必要なノウハウを磨いた点だ。また、ヒットが出るまでは徹底した低コストオペレーションを追及した。人員総数はヒットが出るまでは10人程度、Happy Aquariumがヒットした時点でも20人程度だった(Zyngaは1アプリで600人程度)。ユーザー獲得も、一部で「スパムに近い」と言われるほど徹底してバイラルを活用し、広告費はほとんど使わなかった。

 また、Happy AquariumはFacebook初の水槽シミュレーションということもあり、その革新性と口コミの仕組みが相まって非常に品質が高いゲームとなった。結果としてリリースから2カ月で2200万MAUを獲得するという快挙を達成しており、その後も観光・島シミュレーションの「Happy Island」などオリジナリティの高いゲームを出している。

 一度ヒットアプリが出ると、後はほかの自社ゲームにユーザーを流しこめるので、勝ち組の好循環に入ることができる。日本でも出遅れたSAPは、低コスト体制で着々とノウハウを蓄えながら、ヒット待ちをすることで、虎視眈々(たんたん)と勝ち組へと駆け上る機会が伺える。

すみ分け戦略:Playdom

 すみ分け戦略は、リーダーが主戦場としているメインの市場を避け、ニッチの市場の覇者を狙うというものだ。特に日本では、mixi、モバゲータウン、GREEと相応の市場規模が期待できるオープンプラットフォームが3つあるため有効だろう。ただし、プラットフォーム間の競争動向や新プラットフォームへの参入は慎重に検討する必要がある。また、プラットフォームごとの特性の違い(ユーザー属性、ゲームへの慣れ度合、課金性向など)に合わせて作り込むことも重要だ。

 すみ分け戦略で成功した典型例はPlaydomだ。同社はそれまではデータを公表していなかったが、2009年3月に突如Myspaseで2200万MAUを突破し、ナンバーワンのSAPになったと発表した。ZyngaがFacebook上でSlideやRockYouとリーダー争いをしている間に、MySpaceに集中し、ひそかに地盤を固めていた。

 2009年10月時点でPlaydomはMySpaceで5200万登録ユーザー(月間アクティブ率を50%程度と想定すると2600万MAU程度)。FacebookにおけるZyngaの1億2800万MAUには遠くおよばない。だが、2009年の売り上げで見るとPlaydomは60億円程度、Zyngaは200億円程度と言われており、ユーザー数ほどの差はない。

 MySpaceは音楽を中心としたエンターテインメント性でFacebookと差別化を図っており、また可処分所得が高い米国ユーザーの比率が高いため、Facebookよりも課金性向が高く2倍近くあるとも言われている。PlaydomはZyngaがFacebookを主戦場としている隙に、数は小さいが課金効率が良いMySpaceを制覇することに集中していたのだ。そして、前述の「MySpaceナンバーワン宣言」をした2009年3月以降はFacebookにも進出を始めた。当初は苦戦していたものの、「MobSters 1」と「MobSters 2」でマフィアゲームに集中し、続いて「SocialCity」と「Towner」を持つMetroGamesへ出資して、街シミュレーションに集中。さらにMetroGamesとThree Melonsへの出資、買収によって、Zyngaの人気が手薄なアルゼンチンに集中するといった差別化戦略を採っている。その結果Facebookでも徐々にランキングを上げ、2010年3月時点では3600万MAUでランキングを7位まで到達している。

 1つのプラットフォームに集中しリーダーのポジションを築き、そこから生み出されるキャッシュと資金調達によって、ほかのプラットフォームに参入する――この戦略はプラットフォームが3つある日本ではおもしろいだろう。ユーザー属性や課金性向的にFacebookに近いmixi、逆にMySpaceに近いモバゲー、そして6月にオープン化をひかえるGREEと、リーダーを追いかける立場のSAPにとって、プラットフォーム戦略は非常に重要となってくる。

国内予選の後の世界本戦に向けて

 さて、今までは各国ごとに閉じた話として、SAPの戦略を考えてきた。しかし、遠からずグローバルレベルでの競争は始まる。日本で勝ち組となったSAPは海外での成長機会を求めるようになる。国内市場でも、海外大手SAPは日本のSNSへの参入機会をうかがっており、2009年にはFacebookが日本法人を設立して日本攻略を本格化する兆しを見せている。

 また、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンが世界規模でモバイルインターネットの標準になった際、PCでのソーシャルゲームの進化、いわば“世界のFacebook生態系”と日本が独自仕様に進化してきた“日本のSNS生態系”との間での争いも始まる。以前にも述べたが、このようなグローバルレベルでの競争は日本のSAPにとって国内市場への脅威であると同時に、世界展開を図るまたとない機会である。

 日本のSAPがその絶好の機会をとらえるためには、日本ならではの強みであるモバイルにおけるユーザビヘイビアの理解やモバイルに最適化されたゲームデザインを徹底的に磨くと同時に、スマートフォン対応の技術ノウハウをいち早く習得し、モバイルSNS間のグローバル競争の動向に目を凝らしておく必要があるだろう。筆者もベンチャーキャピタリストとしてぜひ日本のSAPがグローバル本戦で勝ち抜くための一助になりたいと考えている。

高宮慎一

グロービス・キャピタル・パートナーズ

シニア・アソシエイト

グロービス・キャピタル・パートナーズでは、IT/モバイル領域での投資を行う。特に、ソーシャルメディア、ソーシャルアプリなどコンシューマ向けサービスを担当。TwitterのIDはs1kun。 戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてSI/ITサービス企業向けに事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略を立案。東京大学経済学部卒、ハーバード大学経営大学院MBA卒。

グロービス・キャピタル・パートナーズは、グロービスグループの持つ経営ノウハウおよびネットワークを駆使し、創業段階および成長段階の起業家・ベンチャー企業に対し、事業資金の提供のみならず、企業成長のために必要となる「ヒト(人材)」「カネ(資金)」「チエ(経営ノウハウ)」を総合的に支援するハンズオン型ベンチャーキャピタル。
設  立:
1996年
運用総額:
約400億円

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