WEBにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。ロート製薬のリップ「メンソレータム・ディープモイスト」の特設サイト「ハウツー・キッス〜ファーストキッスへの道」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
これは、人生で一度しか体験しない唯一無二の大イベントである「ファーストキッス」を成功させるべく、ディープモイスト研究所によって立ち上げられたサイトです。
サイトでは、まず失敗しないためのファーストキッスのための方法を指南します。無計画でファーストキッスに臨むのは、TシャツとGパンで冬山に登るようなものだと説くのです。
そのために「実家の墓参り」「暗闇に慣れる」「唇をとがらせる」「顔の筋肉を柔らかくする」「キッス黄金比率を手に入れる」などの事前準備をすることが大切とのことです。
また、「お出かけキッス」「勘違いキッス」「出会い頭キッス」などの様々なキッスを学ぶことによりバリエーションが増え、未来のキッスライフがさらに豊かになるためのコンテンツ、「キッス古今東西」。
さらに、「世界一長い時間キッスしていた記録はイスラエルの夫婦が残した記録で、30時間45分のキッス」「街中で、どんな男性でも100人土下座すれば、統計上、一人以上の女性とキッスできるらしい」など、キッスした気分になれる?ようなキス知識を集めた「キッスペディア」。
それ以外にも、幅広い年代の男女からのコメント「キッスに関する様々な証言」などのあまり役に立ちそうにないコンテンツが、ゆるいヘタウマなイラストとともに並んでいます。
それから付録として、「ファーストキッスへの道チェックシート」や、狙った相手と確実にキッスをするための男女別の「僕(私)とのキッスのご提案」のパワーポイントのプレゼン資料、手軽にキッスを体験できる「キッス体験ペーパークラフト」をダウンロードすることができます。
このサイトは、ツイッター、ブログ、はてなブックマークなどでとても話題になっています。では何が多くの人の心を引きつけたのでしょうか?
それは「ハウツー・キッス〜ファーストキッスへの道」のサイトにストーリーがあったからです。リップクリームとファーストキッスというのは、昔からの定番の組み合わせです。十代の女の子が出てきて、甘酸っぱくなるようなコピーの雑誌広告を一度くらいは見た覚えがあるでしょう。
しかしこのサイトは、それをちょっと茶化したような内容や構成で笑わせます。それが人の感情を動かすストーリーになっているのです。それでいて、商品の特徴やメリットを所々にさりげなく嫌味なく訴求されています。
そして秀逸なのが、ダウンロードできる付録です。内容は少々馬鹿馬鹿しいような感じですが、紳士用と淑女用に分けられちゃんとパワーポイントの資料になっていたりするのも芸が細かいです。
さらに極めつけは、「キッス体験ペーパークラフト」です。PDFファイルをダウンロードし、カラーでプリントアウトし、それをハサミで切り取り、のりで貼り付けるという面倒な作業をして、ようやく唇の形をしたペーパークラフトが完成します。これは、クラフトの上唇に指2本、下唇に親指を差し込みながらキッスの練習をするためのものです。(実際に試した人のブログによると、このクラフトとのキスは、のりの味がするそうです)
ただサイトを見るだけではなく、ダウンロードすることで、生活者も参加できるというストーリーが組み立てられているのです。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のWEBコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「あの演説はなぜ人を動かしたのか」(PHP新書)
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