グローバル展開が難しく、「ガラパゴス」と語られることが多い日本のモバイル・ネット業界。しかしそれは、業界の本質的な競争力不足がゆえの問題ではない。特にモバイル×コンテンツの領域ではグローバルで勝負できると考えている。
ゆで蛙に陥りやすい中途半端に大きな国内市場、そしてそれに対応する形で自らの限界を設定してしまっている企業のマインドにこそ、グローバル化を阻んでいる原因があるのではないだろうか。今回は、なぜ今グローバル展開を再考すべきなのか、そしてその際のKey Success Factors(KSF:成功要因)をどう考えるのかについて、ソーシャルアプリでの事例を交えながら「日本の競争優位性」「よりフラットになったグローバル市場」「今このタイミング」というポイントで考察したい。
日本の競争優位は、iモード以来のモバイル・インターネット生態系の中で培われてきたサービスモデルとコンテンツにある。キャリア主導で世界随一の品質の通信網が敷かれ、政策的に手数料が抑えられたキャリア課金の仕組み(海外では手数料が50%以上ということも当たり前)やコンテンツ事業者を支援するツールやミドルウェアが導入された。その結果、世界に先駆けてアイテム課金やかざすクーポンなどの革新的なサービスモデルが生まれ、コンテンツ事業者も育成された。
海外とは通信規格や課金インフラなど、異なるものは多いが、サービスモデルそのものやコンテンツ自体を転用することは可能だ。また、任天堂のようにプラットフォームとコンテンツをセットにした海外展開もおもしろいいだろう。
海外でも日本のモバイル事情は非常に注目されている。筆者が海外のソーシャルメディアやソーシャルアプリプロバイダー(SAP)と話をする際も必ずと言って良いほど日本の状況や参入するためにはどうしたら良いかと相談を受ける。また、海外大手ベンチャーキャピタル(VC)からも日本の先進的モバイル企業を海外展開する際は、ぜひ投資検討をさせて欲しいと言われている。ガラパゴスは決して進化の行き止まりではなく、1つの進化の究極形として海外展開が可能な要素を大きくはらんでいるのだ。
「グローバル市場がフラットになり、あたかも1つの市場のようになる」――言い古されたコンセプトだが、リアルでは国をまたぐ際の追加的な固定費が大きく、市場が完全にフラットになったとは言い難い。しかし、ネットではディストリビューションチャネル(SNSなどのプラットフォーム)が先行する形でグローバル展開している。
ソーシャルアプリ世界最大のディストリビューションチャネルの米Facebookでは3.5億MAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー)、70言語以上(2009年12月現在)のリーチを誇っている。また異なる仕様のプラットフォームをまたいでアプリを提供するポーティングコストも比較的小さく、OpenSocialなどの標準仕様も策定されていることから、リアルに比べると圧倒的低コストでグローバルディストリビューション体制が構築できる。中国の大手SAPであるRekoo Mediaなどは、ソーシャルゲーム「サンシャイン牧場」をFacebookをはじめ、中国の51.com、日本のmixi、ロシアのVKなど数多くのプラットフォームで展開している。
日本のサービスモデル、コンテンツの領域での競争優位性は確かだが、逆にその優位性の賞味期限もせいぜいあと1、2年程度だろうという危機感もある。PCで勝ち組となった海外ソーシャルメディアやSAPはすでに次を見越してモバイル戦略の検討を始めているし、大手VCでも日本のサービスモデルを海外の市場でどうすれば適用できるか検討を始めている。さらに、海外ではiPhone対Androidという日本ではまだ表面化していない対立軸の中で、モバイルインターネットの標準争いが展開されている。
このまま放置すれば彼らが別の進化系の究極形にたどり着くのも時間の問題だろう。90年代PCで日本国内標準PC-98が海外から入ってきたDOS/Vに絶滅に追いやられたのと同様に、日本のモバイル業界が海外標準に規模の経済にモノを言わされ駆逐されてしまう――そんなシナリオも見えてくる。では、グローバル展開をするためには何か必要なのか? 5つのKSFを見ていきたい。
世界中の先進市場で顕在化している変化の兆しを組み合わせることで、業界の進化の方向感の仮説を形作ることが可能だ。そして、進化の分岐点を継続的に観測していくことで、仮説をアップデートし自社の戦略を素早く変化に対応させていくことができる。
例えば、現状の「Open SNS+ソーシャルアプリ」のブームの兆しの断片は随所に見られた。家庭用ゲーム市場の成熟化、PCオンラインゲームにおけるアイテム課金モデルの登場、モバイル上でのSNSの立ち上がり、米国PC SNSにおけるオープン化政策の成否によるFacebookとMySpaceの逆転。
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