総務省は11月16日に携帯端末向けマルチメディア放送の参入希望調査の結果を公表しました。
携帯端末向けマルチメディア放送とは、2011年7月24日に地上アナログテレビ放送から地上デジタルテレビ放送への完全移行に伴い、利用可能となる周波数を利用して実現を図ろうとしている新たな放送のことです。今回の調査は、この帯域に参入しようと考えている事業者の意見を聞き、制度整備を検討する上での参考にする位置づけで実施されました。今後は制度整備を踏まえて2010年春頃に免許申請を実施し、夏頃に事業者の選定を行うスケジュールとなっているようです。
携帯端末向けマルチメディア放送は、全国向け放送(V-High)と地方ブロック向け放送(V-LOW)の2つに区分されています。さらに衛星放送のように受託事業者と委託事業者を分けた放送形態を地上放送として始めて採用しました。少し複雑なシステムに見えるかもしれませんが、例えば簡単に表現すると、全国向け放送がモバイル版スカパー的多チャンネルサービス放送、地方ブロック向け放送は来るべき道州制を見据えた放送ビジネスモデルの実証実験、といえるのではないでしょうか。
そんな携帯端末向けマルチメディア放送に今回36者(非開示10者)の参入希望がありました。当初の予想通り、全国向け放送は携帯電話事業者(キャリア)が中心、地方ブロック向け放送はラジオ事業者が中心となった事業者が参入希望を表明しています。そのほかにも地域を活性化しようと地方のメディア事業者以外の参入希望もありました。
さて、いよいよ始まろうとしている携帯端末向けマルチメディア放送ですが、何か雲行きが怪しくなってきたようです。その大きな変化要因は政権交代ではないでしょうか。今あらゆる政策の検証が民主党政権下でなされています。携帯端末向けマルチメディア放送も実現性の可否を検証されたのでしょうか。
先のNAB東京セッションで内藤総務副大臣から、地方ブロック向け放送について見直しもありうるとの発言がありました。その理由は以下の通りでした。
要するに、「地方ブロック向け放送の制度設計にはビジネスとして無理があるのではないか」、「本周波数帯はマルチメディア放送であり、現行ラジオのデジタル移行のものではない」、ということを発言したように聞こえました。
一方、全国向け放送については、携帯電話事業者が手を挙げているため、インフラ整備に支障はなく、携帯電話端末への搭載もスムーズ、ビジネスモデルも全国一斉同報性なので、うまくいくのではないかと、副大臣は期待を表明しています。
同じ携帯端末向けマルチメディア放送にもかかわらず副大臣の発言は明暗を分けたものになっています。まずは地上アナログテレビ放送がつつがなく停波することが大前提ですが、電波の有効利用のために跡地問題はまだまだ後を引きずりそうです。参入を目指している事業者は粛々と機関決定を待つのみなのでしょうか。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より現職。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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