医薬品のネット販売規制はクリスマスイブにひとつの節目 - (page 2)

別井貴志(編集部)2009年10月23日 05時00分

 この一方で、国が出した「求釈明に対する回答書(2)」の5つの回答を踏まえて原告は反論しているが、その中でも原告側が特に重要だと考えたのは3つ。

 1つめは、「情報提供義務の解除要件が、第1類医薬品についてまであるのに、ネット販売が認められない点」について、国側は「法解釈は条文の文言のみならず、その趣旨も踏まえるべき。よって“薬剤師等専門家が自分で買う場合”などといった明確な解除の理由なく、購入者が説明不要の意思表示をしても、専門家が漫然と情報提供を行わなかった場合には、行政処分を行うことが法的に可能」と回答した点だ。

弁護士の関葉子氏 弁護士の関葉子氏

 これについて原告側は、「言葉を失うぐらいの驚く回答。まともな議論ができるとは思えない。コメントのしようがないが、この回答自体もう国側でもある程度自分たちのいっていることはおかしいとわかっているのではないか」(原告代理人で弁護士の関葉子氏)と、あきれ顔。「逆にいうとこの説明しか結局できなかったということなので、法36条の6第4項について、国の側は結局、最終的に合理的な説明はできなかったということだ」(同)として、以下を主張している。

  • 法36条の6第4項には、購入者が説明不要といったら情報提供は不要とされており、それ以上は何ら条文に記載もないのに、顧客が説明不要と言う時に説明せず販売したら、「漫然と説明しなかった」として(薬剤師など専門家が)処分されるとしたら、およそ法治国家違反である。
  • “薬剤師等専門家が買う場合”などとごく一部の例外を捉えて情報提供義務の解除要件を論じるなど、本末転倒。

 2つめは、「第2類医薬品の情報提供努力義務」について、国側が「行政指導のほか、薬事法69条2項に基づく立入り検査なども可能」と回答した点だ。これに対して原告は、以下を主張している。

  • 仮に立ち入り検査をしても、努力義務に違反したかどうかは記録に残らず、努力したかと聞かれれば努力したと申告するのは当然。努力義務の実効性確保の方法はない。にもかかわらず、ネット販売禁止だけ厳しい措置を行うことは、法の適用において平等でなく恣意的である。よって本件訴訟の争点と関連性を有する。
  • ネットにおける販売では記録が残せるため、情報提供していないのに、しているなどの言い訳はできず、より実効性が高い。

 3つめは、「代理人の購入」について、国側が「代理人でも、対面なら代理人を通じて使用者の属性や状態等を把握できる。使用者自らが購入する場合と比べ格段の相違があるとまではいえない。ネットで使用者に情報提供するより、代理人に対面するほうが優位」と回答した点だ。これについて、原告側は以下を主張している。

  • 代理人(家族や友達など)に聞くのだから間接的で本人ほど状態を把握していないし、対面販売の利点とされる実際の使用者の顔色やしぐさは把握できない。
  • 必要な情報を使用者に伝えるためならば、ネット上であれ、本人に説明するほうがよほど情報は伝わる。

 関氏は「これもやはり常識的に考えて、電話やメールで使用者本人が直接自分の容態を伝えるのと、本人の容態を聞いているかどうかわからない家族や友達が買いに行くのとどちらが安全ですかと言った場合に、代理人のほうが容態がわかりますというのはどう考えてもおかしいんじゃないか」と述べた。

 今後の進行について、被告側は「(準備書面(3)で今回原告側が示した最高裁の判例を用いた主張などで)憲法を論じているので、これに対してきちんと主張、立証したいので2カ月ほしい」としたが、原告代理人の阿部泰隆氏は「本件はそんなに丁寧に勉強しなければ答えが出ないような大がかりなものではなくて、必要性、合理性があるかどうかは調べればわかるので、こちらとしては売り上げ激減という大変深刻な状態なので、引き延ばし作戦は困る」と主張した。

弁護士の阿部泰隆氏 弁護士の阿部泰隆氏

 さらに、阿部氏は記者会見で以下のように主張した。

「薬事法36条の6第4項は、『情報提供の方法については省令に委任し、その方法の中に対面販売というが入っている』というのが被告側の主張ですが、薬事法からはそんなことは読み取れない。どういう方法で提供するかはネットでも薬局でも同じ事で、そういうことを省令で書くべき。ネットで販売禁止ということまでは入っていない。それが入るとしたら、内閣法制局(法制的な面から内閣を直接補佐する機関で、閣議に付される法律案や政令案、条例案の審理や法令の解釈などが任務)に説明したのか。私の推測では、法律に書いてないから内閣法制局はそんな論点があることに気がつかない。それで黙って通っちゃう。国会が終わったあとで、役所が『いや実は法律の主旨は対面販売以外は禁止だったんだ』と。これは、内閣法制局の審査を逸脱する。国会の審査を逸脱する。役人が立法者の地位を簒奪(さんだつ)するものだと。そういう主張をしている。『内閣法制局の審査で、対面販売以外は禁止というのをわかるように伝えていて、それでも合憲だというお墨付きをもらっているのか』というのが、かねてからのこちらからの主張なのだが、裁判所もこちらの主張を理解してくれたようで、被告のほうに対面販売について法制局審査の参考になるものを11月20日までに出しなさいというふうにいっていただいた。国会での論戦の他に内閣法制局でどのように審査したのか、というのも重要な根拠になるだろうと」

 こうしたやり取りがあった結果、今後のスケジュールは、以下になった。次回12月24日に結審する予定で、その後に判決が下る。

  • 11月10日まで:ケンコーコムら原告側が被告側(国)の準備書面(2)に対する反論書を提出
  • 11月20日まで:被告側が法制局審査に関する資料があれば提出
  • 12月7日まで:被告側が、原告側の準備書面(3)に対する反論書を提出
  • 12月21日まで:原告側が被告側への再反論書を提出
  • 12月24日:第4回口頭弁論、結審予定
ケンコーコム代表取締役の後藤玄利氏 ケンコーコム代表取締役の後藤玄利氏

 ケンコーコム代表取締役の後藤玄利氏は、会見で「だいたい1日あたりに150万円〜200万円の売り上げを失い続けている。すでに、4カ月以上経ってしまっているが、いまだにこの状況で非常に困っている。この状況を一刻も早く解消したい」と述べた。

  • ケンコーコム医薬品販売状況の推移

 さらに、ケンコーコムのサイトに寄せられる消費者からの「困っている」「今回の改正薬事法はおかしいのではないか」という主旨のコメントが、いまだに衰えないとしている。コメントの受け付けは6月8日から開始したが、同内容のコメント数が累計584件あり、6月は198件、7月は144件、8月は68件、9月は105件、10月は20日までで69件だったという。

 これについて後藤氏は、「12月24日に結審を迎える見通しだが、一刻も早く今のような不適切ないびつな状態が解消されることを願ってやみまない」と悲壮な面持ちを見せた。

 一方、ウェルネット代表取締役の尾藤昌道氏は「ドラッグストアへ行ってこちらから、対面販売というが、ドラッグストアで買い物して対面なのはレジしかない。レジで聞かれるのは『ポイントカードお持ちですか』ぐらい。質問をすることもほとんどないし、質問してもまともな回答を得られないというのが非常に多い。このレジの対応が、どうして対面による情報提供になるのか、さっぱりわからない。極めて、この論理は変なねじ曲げられた論理だというふうにしか思えない」と、呆れ顔。

 また、自民党から民主党へ政権が交代した影響を聞かれると、後藤氏は「いままでは、かなり業界にべったりというか、旧政権の中には、今回さまざまな交渉をしていて、いろんな局面で垣間見えた。長い期間を経たしがらみがない新しい政権になったということは、今までよりは期待は持てると思っている」と答えた。

 阿部氏は、「官僚が法案を作るときに、法律の中には対面販売以外は禁止と盛り込んではいない。対面販売とは何かというのもないのに、内閣法制局も国会も通っちゃう。ところが裁判になると、実は対面販売の原則というのがあったんだと役人が言って、裁判所までをだまそうとしている。役人が、大臣も、国会も、内閣法制局、裁判所もみんなだまそうとしている」と官僚を批判。

 そのうえで、「それをやめようというのが、鳩山政権だとすると、これは大変立派なことで、役人の報告だけでどうするかを考えるのではなくて、役人の情報を抜きで、こんな裁判を続けるべきか降りるべきかをきちんと考えて欲しい。両方の言い分を聞いて考えれば役人のいうことはへりくつの最たるものであることがわかるだろう。へりくつのオンパレードということを政権にきちんと見ていただきたい。それこそが、本当の脱官僚の政治のあり方だと思う」と注文をつけた。

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