多くの企業サイトに英文版がある。英文というと、日本企業のサイトに載る英語に誤りが少なくない。それは単純なスペリング・ミスにはじまり、動詞の活用誤り、時制の不一致などあきれるほどの事例に満ちている。それだけに英文サイトの作成はIR担当者にとっても悩ましい課題だ。
欧米企業のIR担当者も英文サイトの作成では頭を悩んでいる。ひとくちに英文といっても、いったいどの英文で書くかという点だ。英語なのか米語なのか。英国や米国の企業サイトは、母国語で記載されているのだから、そうした問題はないと思われがちだ。しかし、実際の各社のサイトをみるとそうでもないらしい。
コンテンツで「メディア・コンタクト」を見ると、グローバルサイトと国別のローカルサイトで、「Media Center」と「Media Centres」、「News Centres」と「News Center」といった表記が混在する企業サイトは珍しくない。
1年ほど前、英有力紙フィナンシャル・タイムズ(08年1月21日)は英防衛大手BAEシステムズを取り上げて、同社ウェブサイトの「全米第6の大手防衛企業(the 6th largest US defence company)」という言い回しの「defence」は「defense」となるべきではないか、と指摘した。「defence」は米語で、英企業には英語の「defense」が順当だというのだ。これは、例えば「envision」(米語)と書くのか、あるいは「envisage」(英語)とするのかという議論にも通じる。
オーストラリアの労働党は「Labor Party」とつづり、「Labour」とはなっていない。英国の労働党は「Labour Party」と書く。ところで、オーストラリアでは色彩のカラーを「colour」とつづる。話は単純ではない。カナダの学校では米語ではなく英語のつづりを学ぶという。
そのため、「colour」や「honour」、「centre」と表記する。同様に「defense」と書く。前出のように、これを米語では「defence」となる。形容詞はともに「defensive」である。また、北米では自動車の液体ガソリンを「gas」というが、英国では「petrol」と書く。同様に、英語の「practice」と米語の「practise」と、こうした話は尽きない。
スペリングはささいなことではあるかもしれないが、どこまでも付いてまわる問題だ。これは英語圏であろうと非英語圏であろうとか変わらない。その表現のやり方は、一般に社外に対する企業の見方や姿勢を示す、言い換えれば「自社ブランド」に直結すると論じる者も出るくらいなのだ。
では、どうすればいいのだろう。実際、市場に確立したルールがあるわけでもない。各社とも独自の「スタイル・ブック(用字・用語集)」を作成しなければならないのだろうか。
こうして見えてきたのは、米語で記載するトレンドだ。ウェブ・ウォッチャーのデビッド・ボーエン氏によれば、アジア(ホンダ自動車)や南米(ブラジルの石油大手ぺトロブラス)の企業にその傾向が強い。欧州でも仏石油大手トタルやオランダの大手金融ING、スイスの食品大手ネスレ、同じく大手金融UBS、イタリアのエネルギー大手ENIなどのサイトも同様だという。
非英語国の英文サイトは米語をスタンダードとする時代が到来したと言って良い。前出の英国企業BAEシステムズ。そのトップページは、現在、「BAEシステムズは防衛・安全保障・航空宇宙関連の最高水準のグローバル企業です(BAE Systems is the premier global defence, security and aerospace company)」とある。1年前と同様、米語の「defence」を書き込み、グローバル企業だと表記する。国境を超える企業の英文サイトは米語を採用しているのだ。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやまてつゆき)
大和インベスタ−・リレーションズ(大和証券グループ)海外IR部長。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)最近の論文に「英米のIR協会が求める「空売り」ポジションの開示」(『広報会議』09年4月号)、「日欧の企業サイト、好感度を決めるユーザビリティ」(「月刊エネルギー」09年3月号)など。
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