絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第2回--Googleの開けてしまった箱の中味 - (page 2)

なぜGoogleは絵文字をUnicodeに提案したのか

 忙しいなか丁寧に答えてくださったGoogleジャパン広報部に深く感謝いたします。上記質問1への回答から、このプロジェクトを絵文字を使ったビジネス展開の前提条件として捉えていることがわかります。Googleにとっては絵文字を扱いやすくすることによって、絵文字を使うソリューション開発の敷居をさげることが最大の眼目だと言えそうです。

 まさに正攻法。とはいえ、それは決して容易なことではない。質問2、そして質問5への回答から同社がそのように考えていることが伺えます。その容易でないことをやり遂げるには自社だけの力ではむずかしく、そのためにキャリア各社と連絡をとるだけでなく、広く利用者一般の賛同も期待している。質問4、質問5の回答はそういう趣旨でしょう。

 質問3への回答として、同社は来年に予定されているUnicodeバージョン6での収録を目指すものの、実際に開発に取りかかるのはそれ以前でも可能であることを言明しました。どうやら思ったよりも早くUnicode版の絵文字を使えるようになる日が来そうです。こうした動きに対してキャリア各社は、旧来のシフトJISに留まるのか、それとも本格的にUnicode対応に打って出るのか、両者の得失を計算しつつ決断を迫られることになります。

 それにしても絵文字とは、ほんとうにおもしろいですね。どういう訳か絵文字には、今まで見えなかった多くのモノゴトを白日の下にさらしてしまう作用があるようです。その一例として、前回はGoogleのUnicode符号化提案は、日本のキャリア各社が「簡単だけど未来のない選択」をしていたことを明確にしたと書きました。つまり、今まで隠されていた矛盾をあばいたという意味で、まさにGoogleはパンドラの箱を開けたのだと。

 しかし、Googleが開けたそのパンドラの箱には、彼等自身の矛盾も入っていたのかもしれませんね。上記の回答によってGoogleの意気込みは十分に伝わってきます。でも絵文字のUnicode符号化によって、彼等自身が望む未来が100%実現するとは限らないでしょう。今回はそのことを書いてみたいと思うのですが、これは少しばかり長くなりそうで1回では終わりそうもない。

 そこでまず、Unicodeを制定しているUnicodeコンソーシアムという組織について、またGoogleとの関係について書いてみようと思います。いわばディープな内部事情なのですが、いずれも公開された資料によるものですから、じつは文字コードについて少し詳しい人なら誰でも知っているようなことです。しかし不思議なことに今まであまり書かれることはありませんでした。もしかしたら、ここでまで深く突っ込んだ原稿は日本でも初めてかもしれません。まあそんな大袈裟なことではなく、皆さんが日常的に使っているUnicodeの文字は、どういう人たちがどのようにして決めているのか、知っておくのも悪いことではないでしょう。そんな軽い気持ちでお付き合いください。

Unicodeの文字は、誰がどのようにして決めているのか

 もともとUnicodeコンソーシアムでは、新しい文字の提案は「Unicode技術委員会」(Unicode Technical Committee、以下UTCと略)という会議で審議されます。その下にはいくつかの部会が設置されており、Googleの絵文字提案は「シンボル符号化小委員会」(Subcommittee on Encoding of Symbols)が担当、ここで揉まれた後、正式にUTCに上程されるという流れです。

 と、このように書くと、まるでGoogleがお役所の窓口に提案書類を提出し、おとなしくその審議結果を待っているような情景を想像されるかもしれません。ところが、さにあらず。まずこのシンボル符号化小委員会のウェブページは提案者であるはずのGoogleのドメインです。つまり提案者と審議機関が渾然一体となっているようにも見えます。不思議ではありませんか? 実際にシンボル符号化小委員会の委員長を務めるのは他ならぬGoogleにおける絵文字符号化の担当者、マーカス・シェーラー氏その人、つまり提案者と審議のリーダーが同一人物なのです(このページの「Symbols Subcommittee」の項を見てください)。それだけではありません、そもそもUnicode創立者の1人にしてUnicodeコンソーシアムの理事長であるマーク・デイビス氏にしてからがGoogleに在籍しているのです。

Unicodeコンソーシアム理事長のマーク・デイビス氏(Google)[出典:Unicode Directors, Officers and Staff] Unicodeコンソーシアム理事長のマーク・デイビス氏(Google)[出典:Unicode Directors, Officers and Staff

 こうした事実は、Unicodeコンソーシアムという組織の体質、と言って悪ければノリを、とてもわかりやすく表した例と言えます。Unicodeは世界中の文字を収録しようとする国際的な文字コード規格ですが、その制定機関であるUnicodeコンソーシアムは、基本的には会費さえ払えば誰でも入れるオープンな組織です。しかしその核心であるUTCで1票を投じる権利があるのは、年間1万5000ドルを払う正式会員(Full Member)、同じく1万2000ドルの機関会員(Institutional Member)に限られます(ほかに2分の1票を持つ年間7500ドルの賛助会員――Supporting Memberがある)。つまり、「金を出す者が口も出せる」というシステムなのです(メンバーの一覧はこちら)。

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