「2008年、通信事業者は携帯電話市場の主役を降りた」--夏野氏が語る今後の成長鍵

永井美智子(編集部)2008年12月11日 21時41分
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 「携帯電話業界は、2008年に変わった。今までの拡大成長から、縮小均衡へ移っている」――慶應義塾大学 政策メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏は12月11日、モバイルマーケティングソリューション協議会が主催するセミナーに登場。業界を取り巻く状況について分析するとともに、今後業界関係者が採るべき道について語った。

 夏野氏が縮小均衡と話すのは、通信事業者と端末メーカーにとっての市場だ。携帯電話契約者数は1億人を超え、いままでのような伸びは見込めない。また、端末の出荷台数も減っており、電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によれば10月の携帯電話出荷台数は前年の半分以下となった。

これまでは「奇跡の10年」

 これまで携帯電話市場は、奨励金モデルを軸に急速に拡大してきた。通信事業者はメーカーから端末を買い取り、販売代理店に奨励金を払って安い金額で消費者に端末を提供。月々の通信料金を高めに設定することで、投資を回収してきた。

夏野剛氏 2008年は携帯電話業界にとって大きな転機だと語る夏野剛氏

 「これは良いとか悪いとかではなく、1つのビジネスモデルだ。例えば家庭用ゲーム機やコピー機も、本来ならあの値段で買えるものではない。ただ、メーカーはハードウェアで利益を出すのではなく、ソフトや印刷サービスの料金で回収している。初期投資が安いことが普及を後押ししているというのは、実データとして出ている」

 端末の普及に加え、iモードをはじめとしたモバイルインターネットとおサイフケータイの登場で、携帯電話は単なる電話端末ではなく、ITインフラになった。「ユーザーが一気に増えたことがコンテンツを呼び込み、機能の加速度的進化を呼び込むというポジティブフィードバックが働いた。この10年間の進化は奇跡的だと思っている」

 「日本の携帯電話業界がガラパゴスと言われることは、半分は当たっていて、半分は外れている。日本でしかこの現象が起きていないのは、ガラパゴスと言われてもしょうがない。しかし、日本は遅れているのではなく、世界最大の端末メーカーが歯が立たなくて撤退するくらいなのだ。日本は、世界の携帯電話業界から見たらパラダイスだ。世界中の通信事業者のトップや大学教授と話すが、なぜ日本はそんなことができるのかと、みんな注目している」

崩れたメーカーとのWin-Win関係

 ただし2008年に、業界は大きな変化を迎えた。最大の変化は、「通信事業者がリスクを取らなくなった」ことにあると夏野氏は考えている。

 最も大きな変化は、補助金モデルの廃止だ。補助金モデルは、端末メーカーが大きな投資を抱える代わりに、通信費で大きな収益を得られるハイリスク、ハイリターンのビジネスモデルだ。これに対し、割賦販売モデルはユーザーから確実に端末料金を回収できる一方で、通信料金が値下げ競争に陥るローリスク、ローリターンのモデルになる。

 「新端末の普及スピードが緩くなるし、大きな仕掛けはしにくくなる。安全な代わりに、今までのような急成長は望めない」

 こうなると、困るのが端末メーカーだ。これまでは通信事業者が端末の仕様も決め、積極的なプロモーションをしていたため、仕様通りに端末を作ればある程度の台数が売れるという保証があった。しかし、通信事業者はもはや新端末の販売に以前ほど積極的ではなく、同じ端末を長く使ってもらいたいと思っている。さらにメーカーには、開発コストを下げるよう要求している。結果として、開発リスクはメーカーが背負わざるを得なくなる。

 「通信事業者は主役の座を降りた。通信事業者とメーカーのWin-Win関係は崩壊した」

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