官製不況?08年は二重苦の携帯電話ビジネス

戸口功一(株式会社メディア開発綜研)2008年10月29日 11時56分

 ここ数年、日本のゲームビジネスと携帯電話ビジネスは好調に推移してきました。どちらもキーワードはモバイルです。

 ゲームビジネスの中では任天堂DS、ソニーPSPが日本のみならず世界でも爆発的なヒットになっています。携帯電話ビジネスも世界で急速に高機能化が進んでいます。

 とりわけ我が国の携帯電話ビジネスは、端末販売もプラットフォームビジネス(コンテンツ、コマース、広告)も両輪で右肩上がりに成長してきました。今までは…。しかしその流れが規制緩和によって逆流してしまったといわれています。

 その源流は06年携帯電話普及が9000万台を突破した頃に遡ります。

 時代はまさしくモバイルビジネス急成長の最中です。政府・与党がブロードバンド立国を唱え2010年までに100%ブロードバンド化を実現すると世界へ発信しました。ブロードバンド=固定通信の活性化であり、キャリア間の公正な競争促進が普及の条件のようにいわれていました。

 その煽りを受けたのが同じ通信の土壌にあった移動通信ビジネスです。最近はガラパゴス化と称されるモバイルビジネス産業ですが、当時、参入プレイヤーはほぼWIN-WINの状態でした。

 確かに通信料金は明確ではなく、1人当たりの利用料金も高騰していたのは事実です。また一部の公式サイト参入事業者(CP)がキャリアのルールに対して不満等があったことも事実です。しかし総じて好循環していたビジネスモデルであったといえるでしょう。

 それが「新競争促進プログラム2010」の流れを受けた「モバイルビジネス研究会」の提言によって一変しました。

 民間の商習慣(電気通信事業者の縛りはありますが…)である販売奨励金制度を会計問題に言及して改正するように求めました。また料金プランについても通信料金と端末価格の分離プランを検討するように要望しました。このことで通信キャリアは個別に料金プランを改め、販売奨励金についても見直す方向で舵を取りました。

 そして現在、総務省の研究会は「モバイルビジネス研究会」から「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」へと引き継がれ、前研究会の課題を検証する段階に入っています。

 当初はビジネスモデルの硬直化を緩和し、自由化することでさらなる市場が生まれ拡大することが大義名分でした。番号ポータビリティによって自由にキャリアを行き来でき、MVNOも普及し、ユーザーは料金も安く、使い勝手も向上したモバイルライフを満喫しているはずでした。

 しかし、現在起こっていることは、08年度携帯電話端末出荷台数予想は前年比2割減(MM総研調べ)と携帯電話業界の金融恐慌を思わせる落ち込みに産業全体が震撼しています(撤退する端末メーカーも出てくるでしょう)。

 さらに競争促進政策によって各通信キャリアは低価格競争に巻き込まれ、端末、通信収入ともに崩壊しているのが現状です。ユーザーは新料金プランによって極端に端末が高くなったと感じています。

 「0円」ケータイから端末料金は5万、6万円の値段がついています。割賦料金プランでは2年間払い続けなければならず、2年以内に別の端末を購入しても前の端末の料金が残っていることになります。

 景気は心理面の影響が多いといわれています。携帯電話ビジネスも、一度高いと思ったら、よほどの販売転換をしない限り流れは戻ってきません。先の「モバイル活性化プラン評価会議」でも、このままで良いのか、という意見も出たと聞きます。

 携帯電話ビジネスは、08年初頭に青少年保護を目的としたフィルタリングの義務化でも、携帯電話を子どもに持たせないといった論議を生み、販売に少なからず影響したといいます。

 マクロ経済全体が危機的状況の中、儲かる産業を規制緩和の名の下に、規定路線通りに粛々と政策実行することがよいのでしょうか。いずれはやらなければならない正論でも、今すべきことなのか、立ち止まることも必要かと思います。不安定な経済状況に対応するには、見極めが肝心です。

◇ライタプロフィール
 戸口功一(とぐち こういち)
 1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より主席研究員。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆、編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。

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