「日本のゲーム業界は、昔は世界のリーダーだと言えたが、現在は違う」――スクウェア・エニックス代表取締役社長で、社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)会長を務める和田洋一氏は、10月9日に開幕した家庭用ゲームに関する国内最大の展示会「東京ゲームショウ2008」の基調講演に立ち、国内ゲーム業界への危機感を表すと共に、取るべき対策について熱弁をふるった。
和田氏は、日本のゲーム業界への批判として言われている「世界市場の嗜好にあったものが作れていない」「ゲーム開発費が高騰している」「コンテンツファンドなどの資金調達手段が整っていない」などの指摘について、どれも正しくないと断言する。
「世界的に、売れるものは売れている。開発費は確かに上がっているが、世界的なもので日本特有の問題ではなく、しかも日本のゲーム会社の財務バランスは世界トップクラス。コンテンツファンドについては、ハリウッドではうまくいっているものも、ゲームでは世界的に見てさしたる成功例がない」(和田氏)
では、何が問題なのか。和田氏は、「ゲームを作る能力の成長速度が欧米に追い抜かれた」と話す。
1980年ごろ、ゲーム業界のハードウェアメーカーはほとんど日本企業だった。任天堂やセガに加え、多くの家電メーカーが独自のゲーム機を競い合った。各社は自社のハードをより魅力的なものにするため、ゲームソフト会社と緊密にやりとりした上で仕様を決めていた。こうした積極的な業界の交流があり、結果として日本が世界のゲーム業界の中心になっていた。
しかし現在ではMicrosoftが家庭用ゲーム機に参入し、欧米のソフト会社も増えてきた。さらにIntelのような半導体企業やValveの「Half-Life」のようなMOD(ゲームソフトの拡張ソフト)のコミュニティが欧米で活発化し、業界をつなぐハブの役割を果たすようになってきた。
「日本もゲームコミュニティが活発だったときに、テレビや映画などほかの産業と協業したり、学校教育との連携をしたり、海外へコミュニティを拡大したりする努力をすればよかった。そこを怠ったせいで、日本のハブ機能が劣化した。ここが日本のゲーム業界が世界のリーダーでなくなった根本的な原因だ」(和田氏)
和田氏は、今後のゲーム業界はネットワーク型の産業構造に移行する必要があると述べる。複数の企業が分業してゲームを開発したり、テレビなどほかのメディアと連携したマーケティングをしたりすることが考えられる。
ゲーム開発においては、独創性を維持しつつも、効率的な開発が求められる。ゲーム開発の現場にはこれまで職人的で閉鎖的な風土があったが、ゲームデザインやストーリーなどの部分では独自のものを追求しながらも、コードはできるだけ共有するといったように、可能な部分はオープンにしていくことが不可欠だとした。
「世界のゲーム業界は日本が世界のコミュニティに積極的にかかわり、自らハブとなって、すばらしいコンテンツを供給することを期待しているはずだ。日本のものづくり能力や独創性は高い。危機の本質を理解し、できるところから手をつける必要がある」と和田氏は訴えていた。
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