「Unedited. Unfiltered. News.」(編集をしておらずフィルターもかけていないニュース)
これは、CNNが同局の市民ジャーナリズムサイト「iReport.com」に選んだスローガンだ。iReportは、今はやりの市民ジャーナリズムに参入するために作られたサイトである。iReportでは、電子メールアドレスを提示するだけで、市民は誰でも、CNNの報道事業の一部という名目で記事を投稿できる。しかし、何者かがiReportを使って、Appleの最高経営責任者(CEO)であるSteve Jobs氏が深刻な心臓発作を起こしたという偽の報道を広めた米国時間10月3日以降、CNNと市民ジャーナリズムは非難を浴びている。
Appleがうわさを否定するまで、この偽報道はウォールストリートで小さな混乱を引き起こした。Appleの株価は急落し、その日のうちに反発したものの、一時は10%近く下落した。
1本の偽のインターネット報道が、世界で最も有力なテクノロジ企業の1つから、数百万、あるいは数十億ドルもの時価を吹き飛ばすことなど、あり得るのだろうか。これは、Appleの投資家であれば誰もが抱く大きな疑問だ。米証券取引委員会(SEC)の調査員であれば、誰がなぜこのようなことをしたのか興味を持つだろう。CNNによれば、SECの調査員は虚報をiReportに投稿した人物を探している。
また、大手報道機関がなぜ被害が出る前に報道の信ぴょう性を疑わなかったのかという疑問もある。誰がiReportを管理していたのだろうか。確かに、米国で最も信頼されている報道機関の1つであるCNNは、十分な検証をせずに、CNNブランドで他人に記事を投稿させるべきではなかった。
また、Silicon Alley Insider(SAI)も論争の真っただ中にいる。SAIは、ニューヨークを拠点とするテクノロジと金融が専門のニュースブログで、短期間で多大な尊敬と人気を獲得してきた。SAIとCNNは、彼らに落ち度があったと見られれば、評判に傷が付くことはわかっていたはずだが、おそらく、論争をきっかけに、オンラインジャーナリズムにかかわる者は皆、自らを振り返っている。
今、技術ジャーナリズムは激しい競争下にある。10年前、新聞社は翌日の新聞のために今日のニュースを書いていたが、今は違う。事件が起きた後、数分でニュースをインターネットに公開しなければならないというプレッシャーがますます高まっている。しばらく報道に携わっていれば、このようなスピード第一の考え方により、記事の十分な推敲や慎重な報道が失われがちになることがわかる。Jobs氏の偽記事の後、多くの評論家がCNNと市民ジャーナリズムに責任があるとしてきた。しかし、この件の真相は、プロのジャーナリストは責任を持って記事を取り扱ってきたかどうかという疑問を投げかけている。
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