ネット発の経済価値を具現化せよ - (page 3)

新しい流れを作り出す

 このように、その良し悪しは別にしても、これまでメディアの隘路性から来る社会的地位の高さというイメージや、あふれ出るコンテンツへの愛情から、コンテンツ産業に流れ込む人材は多かった。しかし、むしろその流通を担うメディアへの益が占める比率が多く、それらが構造化されていればされているほど、市場成長が低迷すればそのままクリエータへの還元が滞る可能性が出てくる。

 しかし、市場規模の変化はともかく、コンテンツが情報財としての性格を強め、メディアから独立しコンテンツそのものが流動性をもつことで、立場は逆転する可能性が高く、これまで以上に健全な状況を作り出すことができる。結果、成熟したコンテンツ産業ならではの新たな産業形態を生み出すことで、前述した課題2の、そして1への回答とできるのではないか、というのが僕の仮説だ。

 その背後にある理解は、ワイヤレスやブロードバンドといったネットワークが普及した現在、コンテンツそのものがメディアとしての性格を持ちはじめ、それらを作り出したクリエーターがその周辺を巻き込んだマイクロな生態系がダイナミックな順位争いを始めているという認識だ。よく知られたべき乗曲線=「ロングテール」というカーブに沿った形で、コンテンツの順位の高さ=影響力は示される。

 これまでコンテンツはマスメディアでの大量散布、そしてその後の対人コミュニケーションでその存在の情報が広がった。そのため、対人コミュニケーションを可能にする物理的なコミュニティーや都市が重要なファクターとなった。しかし、ネットワーク上では、SNS、検索やトラックバックなど弱い絆や類似性だけでリンクし、スパイラル効果が生じるようになった。このスパイラル効果は「ネットワークの外部性」で説明できる。

 この効果によって、従来のマスメディアによりロングテール・カーブの左側に位置したコンテンツはそこから時系列に沿ってゆっくりと右側に移行するという流れから、コンテンツに接した人たちの行動によって、右側から左側へと移行する可能性が見えてきたのだ(そういった流れにフリーライドしようとするスパム・ブログなど不健全な存在の排除は別の課題だ。妙に数字だけ取り出して、「日本のブログ文化は世界一!」と騒いでいる人たちの気が知れない……。見たこともないでしょ?)。

自律的な視聴者との新たな関係で生まれる価値 自律的な視聴者との新たな関係で生まれる価値
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 いったん左側に行きついてしまうと、情報財固有の性格である「非常に普及しているのに汎用品化(コモディタイズ)しない。むしろ、その代替は困難になる」というルールに従って、その地位を享受できるようになる。その地位は流通に依って作られたのではなく、自ら獲得したコンテンツの価値といってもいいだろう(もちろん、そこには過去の栄光による「過剰な慣性」で優位なポジションに行きつくものもあるが、それについては別の機会に論じよう)。

 しかし、ここに新たな問題が生じてくる。これらのコンテンツ価値は、デジタルコンテンツ白書やPwCの統計では対象となっていない価値ということだ。そう、僕たちの直近の課題は、これらを経済価値に変換する=マネタライズの方法を構築し、成熟したコンテンツ産業を有する国発の新たなコンテンツ文化の流れを作り出すことだ。

森祐治

国際基督教大学(ICU)教養学部、同大学院(修士)、同助手を経て、米国ゴールデンゲート技術経営大学院(MBA:通信・メディア)およびニューヨーク大学大学院コミュニケーション研究Ph.D(博士)へ奨学生として留学。その後、早稲田大学大学院国際情報通信研究科に学ぶ。

NTT、Microsoftを経て、McKinsey & Companyに転ずる。同社を退職後、アニメ作品投資とプロデュース、メディア領域のコンサルティング、インタラクティブサービスの開発などを行う「コンテンツ・キャピタル・デザイン・カンパニー」株式会社シンクの代表取締役に就任。

また、政府系委員会、メディア・コンテンツ領域団体の委員や、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・九州大学大学院芸術工学研究科などで教鞭を執る。

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