5月19日、東京の明治記念館で開催された特定非営利活動法人ブロードバンド・アソシエーション主催「第9回ブロードバンド特別講演会 どうなる?通信・放送融合時代の映像配信〜本格化するIPTVサービス〜」において、12月からの開始が予定されている日本放送協会(NHK)のコンテンツブロードバンド配信サービス「NHKアーカイブス・オンデマンド」に関する詳細が説明された。
登壇したNHKアーカイブス・オンデマンド推進室長の木田実氏は「受信料を使わず、すべてサービス利用料金でまかなうことになる」と新サービスのビジネスモデルを説明。権利処理にかかわる費用が放送用とは別に発生すること、古い番組の配信のために人海戦術で権利処理作業にあたっていることなどに触れ、「当面は赤字の苦しい事業になる」と厳しい見通しを示した。
サービス開始時のコンテンツは1000本程度となる見通しで、9月にも正式にラインアップを発表する計画。地上波放送を見逃した視聴者向けにコンテンツを配信する「見逃しサービス」についてはニュース、情報番組系が中心となると見込みで、ドラマなどの配信は未定。また、料金体系は番組ごとの課金ではなくパッケージ販売が主力になる予定で、金額は「正式には決まっていないが、月額1500円程度を見込んでいる」(木田氏)とした。
後半のパネルディスカッションでは、木田氏がNTTぷらら代表取締役社長の板東浩二氏、アクトビラ代表取締役副社長の久松龍一郎氏とともにIPTVの今後について討議。モデレータをつとめた慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏にビジネス展望について問われると、「まずはマーケットを立ち上げること。その中で、放送事業者は権利処理を済ませた優良コンテンツを送り出すことが使命となる。当面はLose-Loseの関係になったとしても、いずれはWin-Winの関係を築きたい」(木田氏)と将来の発展に期待する意見を述べた。
NTTぷららの板東氏も、いままでの展開を踏まえて「初期投資は軽いが、コンテンツ調達には固定費がかかる」と説明。一方、自社の市場拡大が必ずしもCS放送やケーブルテレビなどの多チャンネルユーザー層とバッティングしていないとの調査結果を背景に、「潜在需要は大きく、市場成長性は高い」とした。また、テレビ端末への標準搭載を進めているアクトビラの久松氏は、その取り組みも含め「いかにエントリーのハードルを低くするかが成功へのポイント」との見解を示した。
IPTV系サービス発展の鍵を握るとされる制度面の改正等については、三者が「ユーザー目線での制度改革が必要」との意見で一致。「かつては供給者サイドの発想で制度設計しても皆が恩恵を受けられたが、現在は違う。消費者の観点からのルール整備が必要な時代」(板東氏)、「ユーザーには放送、通信の区分けは関係ない。放送で見られるものがどうして通信では見られないのか、という議論が起こることは避けられない」(久松氏)とそれぞれの制度改革の必要性を主張した。NHKの木田氏も、公共放送の立場から慎重な姿勢を示しつつも、個人的な見解として「不合理な競争阻害要因があれば、それは改めるべきというのが普通の感覚」と話した。
デジタルネットワーク流通における日本の競争力について、アクトビラの久松氏は「端末にIPTV機能を標準搭載するという取り組みは世界初。これも日本の強み」と自社サービスの特徴を紹介した上で、メーカー側の立場から「権利処理が大変ということは理解しているが、日本の放送コンテンツを2次利用、3次利用しないのはもったいない」とダイナミックな変革を求める声をあげた。また、通信系の板東氏も「タイミングを見ながら、日本の強い部分と海外の強い部分を連携させていくという発想が必要」とグローバルな発想に期待を示す。これに対し、NHKの木田氏は「アニメ分野など、世界的に強い競争力を持つコンテンツはすでにある」と述べるにとどめた。
こうした論議について、モデレータの中村氏は「それぞれの立場から、ソフトパワーを生かした事業展開に対する意気込みを感じた」と評価。また、大手メーカー、通信事業者、放送事業者というそれぞれの立場からIPTVに対して真剣に取り組む様子を「チャレンジングな姿勢」とし、今後の発展に期待を込めるとした。
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